【国益優先】アメリカが京都に原爆を落とさなかった理由

 

太平洋戦争の時、米軍は日本の貴重な文化財を破壊したくなかったから、京都市に爆撃しなかったーー。

そんなふうに考えていたころが俺にもありました。
実際には、1945年の1月から6月まで、京都は何度も米軍の無差別爆撃を受けている。
なかでも最大のものが4日前におこなわれた西陣空襲で、40人以上の犠牲者を含め 100人以上の死傷者がでた。
京都で大学生活を過ごしていたころ、6月26日になると、現場(かその近く)にある碑に花をささげ、手を合わせる市民がいるという話を聞いて、それが“都市伝説”だと知った。

ただ、西陣空襲の3日後におこなわれた岡山空襲では 1700人以上が亡くなったように、京都市が日本のほかの大都市に比べ、爆撃の被害が少なかったことは事実。
米軍が空襲を控えたワケは、京都市は原子爆弾を投下するポイントに選ばれていたから、といわれる。
京都はその「Xデー」のためにとっておかれ、米軍はあまり爆撃をしなかったのだ。

しかし、「京都に原子爆弾が落とされなかったのは、米軍が古都の文化財を守ろうとしたからだ」という都市伝説を信じている日本人が、今でもいるかもしれない。
海外の外国人のコメントを見ていると、たまにそんなお花畑な人がいる。

 

日本中の都市を襲った B29爆撃機

 

アメリカとしては、自分たちがつくった核兵器の破壊力を正確に知りたかった。
その候補地として東京も議論されたが、天皇が地上から消えた場合、日本国民がどんな反応をするのかアメリカも予想できなかった。それに、3月におこなわれた大空襲で東京はすでに壊滅的なダメージを受けたていたから、原子爆弾を落とす価値はほとんどないと考えられた。

米軍は原爆投下に適した日本の都市をリストアップし、その上位か一番に選ばれたのが京都。
京都市には100万人以上が住み、周囲を山に囲まれているから爆風が逃げにくい。原子爆弾が与える被害を測定するには“最適”だったから、米軍はここをターゲットに考えた。

しかし、その報告をうけた陸軍長官のヘンリー・スティムソンは京都への原爆投下に強く反対し、リストから外させた。彼は京都を訪れたことがあり、ここが日本人にとって特別重要なところと知っていたのだ。
7月24日付のスティムソンの日記には、自分が京都を目標から外すべきだと大統領に提言し、その理由を伝えたと記されている。

もし、アメリカが京都を消し去れば、日本人はそれを深く恨むことになる。そうなったら、戦後の長い期間、日本人がアメリカと和解することは不可能になり、ロシア寄りになってしまうかもしれない。
スティムソンが大統領にそう語ったと、英BBCの記事にある。(9 August 2015)

the bitterness which would be caused by such a wanton act might make it impossible during the long post-war period to reconcile the Japanese to us in that area rather than to the Russians

The man who saved Kyoto from the atomic bomb

 

この時点では、もうアメリカの勝利は「予約済み」で、戦争が終わった後のことを考える必要があった。
アメリカにとって理想の戦後政策は、日本国民がアメリカを全面的に支持し、おとなしくその指示に従うこと。戦後、アメリカにとって最大の敵国はソ連になると予想されていたから、日本が親ソ連になるのは最悪の展開だ。
原子爆弾で千年の都を廃墟に変えたら、きっと日本は反米国家になるから、その選択はするべきではない。
そんなスティムソンの意見に、トルーマンも力強く同意したという。

 

原爆投下の直前、戦後アメリカが資本主義陣営のリーダーになり、共産主義国と戦うことを想定したら、日本人の頭の中から、なるべく早く反米意識を取りのぞきたいと考えるのは当然。
つまり、アメリカは日本の貴重な文化財ではなく、自国の利益を優先した結果、京都市が「死のリスト」から外されたことになる。
その前提に京都を愛する日本人の思いがあるから、間接的にアメリカは文化財を守ったとも言える。
加えて、アメリカが日本文化を尊重し、京都を守ったという話は、戦後の日本人を親米にさせるためうえで有効だった。
アメリカは感情ではなく、国益のための合理的な選択として、京都に原子爆弾を落とさなかったのだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。