【日韓あるある】伊藤博文と安重根に対する真逆の評価

 

「韓国侵略の元凶であり、東洋の平和の破壊者」

韓国の国立中央博物館のウェブサイト(遺墨に込められた安重根の遺言)に、そう極悪人として表現されているのは、明治維新の英雄の1人で、日本の初代総理大臣の伊藤博文。
日露戦争に勝利した後、日本はアメリカなどの同意を得て、韓国(大韓帝国)を保護国にした。それで1905年に伊藤が初代韓国統監となり、韓国で改革を行う。しかし、韓国にとってはこれが主権侵害の「侵略行為」になるため、現在では悪の根源のように忌み嫌われているのだ。

きょう10月16日は伊藤博文の命日になる。
彼は1909年のこの日、中国東北部のハルビン駅で安重根によって暗殺された。伊藤を銃撃した安重根は「コレア、ウラ(大韓万歳)」とロシア語で叫び、その場で逮捕され、翌年1910年に処刑された。
伊藤は亡くなる直前、犯人が韓国人と知らされると、「俺を撃ったりして、馬鹿なやつだ」と言ったという。

 

伊藤博文がハルビン駅に降り立ち、この直後に暗殺された。

 

日本と韓国の関係は「近くて遠い国」と表現されて、そのいちばん遠い部分である近代史については、玄界灘を越えると評価がひっくり返る現象がよく起こる。伊藤博文と安重根はそんな「日韓あるある」の象徴的な人物だ。
安重根は「侵略者」を処断した英雄で、現在の韓国で彼は「義士」として尊敬されている。彼の処刑は韓国では「殉国」となる。
しかし、日本では見方が180度変わり、2014年に菅官房長官がこう言った。

「安重根に対しては日本と韓国が完全に異なる見解を持っている」
「安重根はわが国の初代首相を殺害し、死刑判決を受けたテロリスト」

国によって見解が違うことは「世界あるある」で、元首相を暗殺された側が実行犯をテロリストと呼ぶのは世界では常識だ。といっても、東京国立博物館が安重根をそう表現することはないだろうけど。
1893年に北朝鮮が韓国の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領を暗殺しようとしたラングーン事件は、韓国では卑劣な爆弾テロ事件と認識されている。一方、北朝鮮側は「南がわれわれを陥れるために起こした自作自演の事件」と言った。いちばん近いけれど、最も遠い関係が韓国と北朝鮮だ。

国によって見方が変わることは仕方ない。
しかし、英雄をテロリストと呼ばれた韓国側は大反発し、外交部(外務省)は「非常識で歴史を無視した発言に驚きを禁じ得ない」と批判した。日本の常識は韓国では非常識になる。
さらに、与党の事務総長は「安義士がテロリストなら、周辺国への無慈悲な侵略と略奪を行った日本はテロ国家」とまで言った。もっとも、これは日本向けというよりは、国民に対して発したメッセージだろうけど。

伊藤はヨーロッパを見て回って政治や社会について学び、帰国後に内閣制度を整え、大日本帝国憲法をつくり(起草し)、1889年に日本初の憲法が明治天皇から発布された。その功績から、日本語のウィキペディアには「アジア最初の立憲体制の生みの親」と書かれている。「東洋の平和の破壊者」という見方は日本にはない。
4回も首相になって日本の近代化に貢献した伊藤博文が戦後、千円札のデザインに選ばれるのも日本人にとっては当然。日本政府がこの偉人を「侵略の元凶」なんて言えるはずがない。

 

1905年に日本が韓国を保護国化し、伊藤博文が総督として韓城(ソウル)にやってきた時、韓国人に侮辱的な言動をする日本人がいることに怒り、記者を集めてこう述べた。

「このような挙動をする者は、もとより在韓日本人のごく一部とはいえ、日本がすでに韓国の保護を担当した今日においては、このような非道の挙動は日本人が最もしてはならないことです」

ソース:「伊藤博文. 韓国を自滅させるな: 韓国統監就任から ハーグ密使事件まで 現代語訳  伊藤博文演説集(Kindle 版)」

これもきっと韓国では、「非常識で歴史を無視した発言に驚きを禁じ得ない」となる。「韓国侵略の元凶」という前提は絶対に動かない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。