協力関係を深めて、ともに明るい未来を築いていきたい——。
日本も韓国もそんな思いでは一致するものの、不幸な過去が未来へ進もうとする足を引っ張っている。ここ数十年間、そんな状況はまったく変わっていない。
歴史問題が越えられない壁になる大きな原因に、日韓の価値観の違いが挙げられる。それぞれの国で「最も大切」と考えるものが違うから、話をしても距離は縮まらず、いつまでたっても対立は終わらない。
数年前、韓国メディアの中央日報で、ソウル大経済学部の教授がそんな日韓の文化の違いについて分析した。(2019.07.24)
【中央時評】理の韓国、法の日本
筆者はタイトルにあるように、韓国は「理(理知)」の国で、日本は「法」の国だと規定する。ここでいう「理」とは、大ざっぱに「正義」と考えていい。1392年から1897年まで続いた朝鮮時代、朝鮮人にとって「理」は法や王権を超えた最上位の概念だったという。だから官僚たちは、自分の信じる正しさや正義をめぐって激しい争いを起こし、政敵を抹殺したりしていた。
同じ時代、江戸時代の日本では武家政権が支配していて、法は理よりも優位にあり、人びとがきまりをしっかり守ることで社会的な秩序が維持されていた。反抗的ではなく、法が決められて提示されたら、農民も武士もそれを素直に受け入れて従った。
たしかに、あるルールが成立した後に、「もっと正しいものがある!」と議論が巻き起こるのは朝鮮にありそうな発想で、江戸時代の日本にはなかっただろう。
そんな背景から、筆者は「日本は法に定められれば、好むかどうかはともかくそれが終わりにならなければいけない社会だ」という。
現在の韓国でも理致が最も重要とされ、日本では法令遵守が最も重視されていて、そのギャップはよく歴史問題で表れる。
日本が朝鮮を統治していた第二次世界大戦中、多くの朝鮮人が日本企業で働いていた。これによって生まれた問題を日本政府は「旧朝鮮半島出身労働者問題」と表現し、日本のメディアは単に「徴用工問題」と呼ぶ。
しかし、韓国側では、日本統治期を「日帝強占期」、徴用工問題を「朝朝鮮人強制徴用問題」と呼んでいる。「強制」という言葉を加えることによって、日本の侵略性や不法性を強調し、正義の立場から悪を糾弾しようとする意図をみることができる。“理知的な国”ではこうした表現がとても重視されるのだ。
日本人の考え方では、徴用工問題は1965年の請求権協定によって、日韓両政府が話し合いを重ね、「完全かつ最終的に解決されたこと」や「いかなる主張もすることができない」ことが確認された。日韓がこの約束を守ることで、現在に続く日韓関係が維持されてきた。
しかし、2018年に徴用工訴訟で、韓国の大法院(最高裁)が請求権協定をひっくり返し、日本企業へ賠償を命じる判決を下したことで、この問題が日韓の最大の外交(歴史)問題として浮上する。
先ほどのソウル大学の教授は、この判決での価値観の衝突を指摘した。
韓国人は「理致に合わなければ国家間の合意も見直すことができる」、「1965年の韓日請求権協定も見直すことができる」と考えるが、日本人は「協定は法と同一であり、これで問題が終結した」と考えている。日本人の文化や価値観からすると、「最終権威である法まで再解釈しようという韓国を理解しがたい」という。
つまり、韓国では正義(理知)が最上位にあるため、時代の変化などによって、現状がそれに合わなくなったら、国家間の合意を変えたり、法の解釈を変えたりすることができると考えている。
しかし、日本の立場では、どんな状況になっても、後から合意内容を変えることは絶対に認められない。
こういった「お互いの価値観や文化の違いを理解することから始めましょう」的な文章は昔からよくある。しかし、実際にはそれができない。だから今でも、日韓は協力関係の強化では思いが一致しても、歴史問題では衝突しているのだ。
理知(正義)を重視する韓国と、法や秩序を重視する日本の違いは、朝鮮日報のこの社説にも表れている。(2025/03/03)
「罵詈雑言」飛び交うデモ会場、真っ二つに分裂した韓国の三一節
昨年12月、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が非常戒厳を宣言し、韓国社会は大混乱に陥った。それが罪に問われ、大統領は身柄を拘束され、いまは拘置所にいる。
韓国内は、大統領の弾劾に賛成する人たちと反対する人たちに真っ二つに分かれ、社会は大分裂している。1月に知人の韓国人と話をしていて、「早く混乱が収まって、日常が戻ってくるといいね」と言うと、彼は「もう混乱が日常になりました」と笑って言った。
3月1日は、1919年に日本の統治に反対し、独立運動を行った“神聖な日”だったはずなのに、今年は様相が違った。賛成・反対派がデモを行い、激しい非難と悪口、ヘイト(嫌悪)と扇動の言葉が飛び交ったという。与党も野党も国民を統合する努力をしないで、むしろ「甚だしい混乱と分裂を煽った」と朝鮮日報は非難する。
もうすぐ、憲法裁判所が尹大統領の弾劾を認めるか、それとも否定するかの判断を下すことになっている。
どちらの決定が出たとしても、一方のグループは納得せず、むしろ怒りは高まって抗議活動は激しくなり、社会的な混乱や分裂はさらに深まる予感しかしない。「自分の正義」は判決の上位にあるのだから。
いま米国のトランプ大統領が常識や想像を超える言動を連発しており、世界中の国が自国に負の影響を与えないように取り組んでいる。
日本では石破首相がトランプ氏と会談を行い、一応「成功した」と評価されている。
対して、韓国外交は実質的にストップしている。大統領は拘置所にいるし、現在は別の人物が代行をしているが、トランプ大統領はそんな不安定な立場の人物を相手にしていない。
大韓民国は危機的状況にあるのに、国民は二つに分かれ、正義をぶつけ合い、相手を叩きつぶすことに必死になっている。
これでは、朝鮮時代の党派争いと変わらない。そんな内輪争を繰り返した挙げ句、朝鮮は滅亡した。
日本で非常戒厳が出される事態が想像できないが、韓国のような「理の国」ではないから、正しさをめぐってここまで社会が分裂することはないだろう。争えば争うほど、日本が衰退するのは誰でもわかる。だから、最高裁が決定を下せば反対派もそれを受け入れ、きっと混乱はなくなる。
現在の韓国社会の分裂や混乱が、日本でも起こるとはどうしても考えられない。
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