ウクライナ人の心に、日本語の「一期一会」が刺さったワケ

先日、ウクライナ戦争に関して大きな動きがあった。
アメリカとウクライナが約8時間の協議を行い、アメリカが提案した30日間の停戦案をウクライナが受け入れると表明。ゼレンスキー大統領は「戦闘終結はロシア次第だ」と述べ、プーチン大統領に対応を迫った。
しかし、この状況はウクライナにとってあまりハッピーなものではないはずだ。
2月のアメリカとウクライナの首脳会談は対立に終わり、アメリカはウクライナへの軍事支援と情報共有を停止した。これによりウクライナ軍の戦闘能力は低下し、一部の部隊はロシア軍に包囲され壊滅的な打撃を受けたとみられる。そのため、ウクライナは自国の要求を取り下げ、アメリカの停戦案を受け入れざるを得なかったのだ。
2022年2月にロシア軍がウクライナへ侵攻して以来、もう3年以上も戦い続けていて、ウクライナとロシアはかなり疲弊し消耗している。
アメリカとウクライナが停戦で合意したから、今後の展開はロシアの対応次第となる。

 

ことし2月、日本に住んでいるウクライナ人(20代の男性)と会って話をすることになった。その際、事前に「戦争のことは聞かないでほしい」と釘を刺された。
身内や知り合いで亡くなった人がいて、戦争の話題には苦しみや悲しみがともなうから、話をすると心がとても苦しくなる。それに、外国人は興味本位で戦争の話を聞こうとするから、それが屈辱的に感じることがあるらしい。
そんな彼と会って話をしていると、今の彼の心に刺さった日本語があるという。
それが「一期一会」だ。

この言葉はもともとは茶道の心構えで、相手との出会いは一生に一度のものだと考え、ゲストとホストがお互いに誠意を尽くすことを指す。それから茶会だけなく、「もう二度と会えないかもしれない」という思いで、人との出会いを大切にし、心を込めて接することを意味するようになった。
「一期一会」は日本語を学ぶ外国人には人気のある言葉だったから、それを気に入ったと聞いても、「へ〜、君もか」としか思わなかった。しかし、今のウクライナ人にこの言葉が刺さることには深い理由があった。
ウクライナにいる家族や友人と電話で話をしていると、時々、「ドーン」という破壊音が聞こえることがある。ウクライナの人たちはロシア軍の攻撃の下で生活しているから、前線にいなくても、日常生活の中でとつぜん命を失うこともある。
彼の話では、何が最後の話になるか予測できないから、ウクライナでは家族や友人に「愛している」と言う機会が増えた。

海外メディア『ReliefWeb』の記事にもそんなことが書いてある。
あるウクライナ女性は2022年に戦争が始まってから、以前にも増して家族に感謝するようになり、「我が家では 『愛している』と言うことが多くなりました」と話している。(20 Feb 2025)

The events of 2022 have made her appreciate her family more than ever before. “We say “I love you” much more often now in our family,” says Marharyta.

 

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今は分からないけど、ウクライナでは一時期、小さな子どもの背中に名前や生年月日を書く親が増えた。自分たちはいつ死ぬか分からない。子どもが戦争孤児になっても、自分が誰なのか分かるように、親が背中にその子の名前や生年月日を書いていたのだ。
そんな状況なら、「愛している」という言葉を言ったり、聞いたりする機会が増えるのは自然なことで、戦時下にあるウクライナ人にとって、「一期一会」という日本語が心に刺さる理由も分かる。
一時ではなく、恒久的な停戦が成立して、「愛している」と言う機会が減るといいのだけど。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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