近ごろ世界に流行るもの、それは日本旅行かも。
きょねん 2024年に日本を訪れた外国人は約 3700万人と、前年比で 47%も増えて過去最高を記録した。国・地域別に見ると、韓国人が過去最高の約 882万人で1位、以下、中国人(約700万人)、台湾人(約600万人)という結果になった。
逆に、最も多くの日本人が海外旅行で行った国の1位も韓国(約 320万人)だった。日韓は政治的には距離があっても、文化交流は続いている。文前政権の時代、日韓関係は「戦後最悪」と言われるほど悪化したが、それでも国民の交流は行われていた。ある韓国紙がそんな日韓の状態を「氷の下に水は流れる」と書き、韓国人らしい表現だなと思ったことがある。
それが今では、お互いに人気の国ナンバーワンで、水がお湯に変わって氷を溶かしつつある。
ネット上には、日韓が好きでグルメや観光情報などを投稿して、日韓友好を願うグループがいくつもある。そのうちの1つで以前、きょねんホームステイで韓国人の女子中学生2人を受け入れたときのことを紹介する投稿を見つけた。
その家には同じ年ごろの娘がいて、言葉はあまり通じなくても、3人とも「雰囲気」ですぐに仲良くなって、一緒に買い物や食事をして交流を楽しんだ。
たまたま近くで花火大会があったから、浴衣を着て参加することを提案すると、2人の韓国人女子は満面の笑顔を浮かべて「お願いします」と言う。初めて浴衣を着て、花火大会に参加した体験は「ずっと記憶に残る」と言ってとても喜んでくれた。
食事をしているとき、帯でおなかのあたりが苦しかったことを除けば、彼女たちは浴衣体験を本当に楽しんでくれたと、投稿者もうれしそうに報告していた。
そんな幸福感にあふれたポストを見て、頭に浮かんだ韓国人がいる。
その韓国人は 10年以上前、ワーキングホリデーで日本へやってきて、東京で一年間暮らしていた女性だ。当時、女子大生で 20代だった彼女は日本語を学びつつ、日本ならではの体験をしてみたいと思っていろんなイベントに参加して、経験値と日本人の知り合いを増やしていた。その中の1つに、「浴衣で花火大会」がある。
来日する前、アニメで浴衣を着た若い男女が花火大会に出かけ、屋台でストリートフードを楽しむシーンを何度か見てとても気に入ったから、それは彼女の「日本で絶対にすることリスト」の上位にあった。
実際に浴衣を着た感想は、おなかが苦しくなったことを含めて、さっきの女子中学生と同じ。浴衣はすてきな思い出を作ってくれたから、帰国するときの「断捨離リスト」の対象外となり、韓国へ持ち帰ることにした。
昨年末、ソウルに住んでいる彼女と話をしていたときに、あの投稿を思い出した。帰国してから、浴衣を着たかどうか聞くと「一度もない」とのこと。今でもタンスの奥にあるけれど、帰国してからずっと眠ったままになっている。
「それは反日感情があって、街中で着て歩くのは危険だから?」と聞くと、そうではなくて、単純に浴衣を着る理由がないかららしい。韓国での生活で、あえて浴衣姿になって出かける場所や機会がないから、あの浴衣は日の目を見ないままでいる。
ただ、「反日」の要素はゼロではない。街中で浴衣を着て歩くと、周囲の人に襲われることはなくても、違和感を感じて、ジロジロ見る人がいることは予想できる。そうなると、自分も不快な気持ちになるから、浴衣を着て外出する気にはならないという。
文前政権のときのように韓日間系が悪化した時期に、運悪く民族主義者に見つかったら、「日本の服を着るな!」とからまれるかもしれない。でも、そんな悪条件が重なることはまずない。
10年以上も浴衣を手に取らなかった理由は、あえてそれを着て出かける機会がないことが一番大きい。それ以外に、韓国で浴衣を着て外出すると、良い記憶よりも悪い思い出ができる可能性が高いことがある。だから、「反日要因」はゼロではない。
一方、日本は韓服に対してわりと寛容だ。
新大久保や鶴橋にはチマチョゴリのレンタルをする店がいくつもあって、それを着て街中を歩く日本人はたくさんいる。そう知って不愉快になる人は例外的で、ほとんどの人は気にしない。韓服姿に嫌韓が結びついてトラブルが何度も発生していたら、そんなサービスを提供する店はなくなる。
いまネットで調べた限りでは、韓国で「浴衣で街ブラ」をさせてくれる店は見つからなかった。
韓国で「侵略の元凶」として嫌われる伊藤博文(後方の真ん中にいる人物)。
でも、実際には韓国文化を尊重していて、彼は民族衣装の韓服を着て記念写真を撮ったこともある。
政治家になると、国民(反日)感情には特に敏感にならざるをえない。
16世紀に豊臣秀吉が起こした朝鮮出兵は、韓国では「朝鮮侵略」と理解され、400年以上過ぎた現在でも深く恨まれている。
6年前、日本政府がホストとなって、大阪で「G20首脳会議」が開かれた際、大阪城をバッグに各国首脳が記念撮影をするという案が浮上すると、韓国で物議をかもした。大阪城は秀吉の本拠地だったところだから、文大統領がそれと一緒に映るのは国民感情にとって良いことではない。それでも、この時はこの案が実現した。
しかし、2004年に鹿児島の指宿市で、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領と小泉純一郎首相の首脳会談が行われた時には、過去の歴史を原因としたいろいろな摩擦があり、実現できなかったものもあった。
指宿は砂風呂が有名。日本政府は盧大統領にその体験をしてもらおうと考えたが、韓国側にノーと言われてしまった。
ハンギョレ新聞の報道によると、その原因は浴衣だ。(2019-05-23)
盧元大統領が日本伝統の浴衣を着ることに難色を示し、日本側が進めていた温泉「砂むし風呂」歓談は実現しなかった。
秀吉の本拠地「大阪城」でG20首脳たちが記念撮影?
韓国大統領が日本の伝統衣装を着たら、国民感情を刺激して「親日大統領」といった批判が殺到する未来しか見えない。
*韓国社会で「親日」は、民族の裏切り者を意味する罵倒語だ。
政権支持率を直撃するかもしれないし、韓国側としてはそんなリスクを覚悟して、大統領に砂風呂体験なんてさせられない。
おそらく大阪城での記念撮影が限界だ。
日韓の交流が進んでいることは、お互いの国を行き来する人の数からも分かる。しかし、韓国人が日本で気軽に浴衣を着ることはできても、韓国にそんな雰囲気はない。
日本では韓服を着て街を歩くことができても、韓国社会にそんな自由でリラックスした雰囲気はない。
いま日韓関係は友好的なムードが広がっているけれど、氷が解けるまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。
コメント
コメント一覧 (2件)
> ただ、「反日」の要素はゼロではない。街中で浴衣を着て歩くと、周囲の人に襲われることはなくても、違和感を感じて、ジロジロ見る人がいることは予想できる。そうなると、自分も不快な気持ちになるから、浴衣を着て外出する気にはならないという。
ははは、つまりそれが最大の要因であって「周囲の反日感情が怖いから」ということですね。
最大の理由としてあげている「着ていく機会がない」かどうかは、自分次第でどうにでもなることでしょう。自分が着たければ着ればいいだけのこと。でも周囲の目を気にしてそうできないのですよね。
彼女は、おそらく自分の中の触れられたくない部分に対して質問を受けたので、即座に正直な返事をするのがためらわれたのでしょう。まあでも、そのように「ちょっと考えてから」返答するようになったってことは、それだけ日本人的な考え方が身についた証拠でもあります。
彼女が浴衣を着ない理由は、その機会がないことが一番で、「反日感情」はほぼ気にしていません。