新疆(しんきょう)ウイグル自治区は中国の最も西にあって、キルギスやタジキスタンなど中央アジアの国々と接している。日本人がイメージするシルクロードの自然や都市、文化はこのあたりのものが多い。
新疆にはたくさんのウイグル族が住んでいて、漢民族が主体の北京や上海、西安などとは別の世界が広がっている。今回はそんな新疆からやってきて、日本に半年ほど住んでいるウイグル族の中国人に聞いた話を紹介しよう。
ーー日本語を学んでいるアメリカ人やタイ人、トルコ人に聞くと、漢字がラスボスで、これと戦っているうちに力尽きて日本語をあきらめる人が多い。その点、君は中国人だから、漢字はむしろ仲間だよね?
たしかにタイ語やトルコ語と比べたら、日本語には漢字があるのでわかりやすいです。でも、日本語と中国語では同じ漢字でも意味が違っていて、それが誤解の原因になることもあります。
ーーそれは「日中あるある」だ。
たとえば、中国語の「算数」には「約束を守る」という意味があるというのは、日本人のボクには想像できない。中国語で「老婆」という漢字は「妻」の意味になることを知らないと、日本では離婚原因の1つになる。
私にとって漢字よりも難しいのは、日本語の「に」「を」「へ」「で」「の」「が」といった助詞の使い方です。中国語にそんなものはありませんから。「私はあなたを愛しています」は、中国語なら「我爱你(ウォ アイ ニー)」と三文字でOKです。
ーー助詞をカットして「わたし あなた 愛する」と言っても、ギリ意味は通じるけど、やっぱり助詞がないと日本語の文章にはならない。昔、「ちゃんとリンスしてくれるシャンプーです」を省略した「チャン リン シャン」という言葉が流行ったけど、あれは中国語的な発想だな。
助詞は一文字でもかなりの破壊力があるから、使い方を間違えると文章全体を台無しする。外国人を助手席に乗せてアパートまで道案内をしてもらったとき、いきなり「あの信号に左を曲がって」と言われて、情報を処理できなかったから、そのまま通り過ぎてしまった。
ここは上海の公衆トイレで、「手紙」とはティッシュペーパーのこと。中国に排便中に手紙を書く文化はない。
ーー日本に来て気に入ったものはある?
それはシーフード、特にエビです。私は砂漠に近いカシュガルで生まれ育ったので、鯉などの魚は食べたことがありましたけど、シーフードが食卓に並ぶことはありませんでした。
ーーカシュガルから一番近い海は、パキスタンが面しているアラビア海か。
*「世界最大の湖」とされるカスピ海は除く。
地図で見るとカシュガルからアラビア海までは、北海道から鹿児島くらいの距離があって、途中でヒマラヤ山脈を越えないといけないから、ビーチへのアクセスとしては世界でも最悪レベルだな。
私は10歳のころにウルムチへ行って初めてエビを食べ、そのおいしさに衝撃を受けました。でも、日本のエビはそれよりもおいしかった! スーパーでは新鮮なエビが売っていますし、レストランではエビを使ったメニューがよくあるので、エビ好きの私にとって日本はパラダイスです。
ーー海沿いの都市に住んでいる中国人にはありふれた食材だけど、世界屈指の内陸部に住んでいたら、エビは異世界の食べ物に近いのかな。
日本人はエビが大好きだから、さまざまな料理に使われている。
日清のカップヌードルが開発されていたとき、日本人にはエビがあると見た目が良くなって、高級感が出るということで、すぐに具材として採用された。世界中から集められた60種類以上のエビの中からプーバランが選ばれて、今でもそのエビがカップヌードルの中で待機している。
エビのすしはどう?
いや〜、新疆では食材を生で食べる文化がなかったので、それは苦手です。せっかくエビを食べるなら、生よりも火を通したほうがいいですね。
ーーそんな君に朗報がある。日本には「エビチリ」という日本生まれの中国(中華)料理があって、中国人にも好評だと聞いた。
これは中国料理の「乾焼蝦仁(カンシャオシャーレン)」が元ネタになっていて、日本人には豆板醤が辛すぎるから、ケチャップなどを使ってマイルドな味に仕上がっている。
そんな魅力的な食べ物があったんですね。まだまだ日本を探検しないといけません。
ーー君の旅は始まったばかりだから、これかも日本語学習とグルメ開拓にがんばってくれ。
コメント
コメント一覧 (2件)
> せっかくエビを食べるなら、生よりも火を通したほうがいいですね。
寿司ネタのエビは、生のものもあるけど、茹でたものの方がネタとしては一般的なはずです。
それとも彼の考えでは、「ボイル」は火を通したうちには入らないのかな?
メニューを見て、本人は「生」と認識したのでしょうね。