「第六感」を持つスピリチュアルな人でなければ、普通は「見る・聞く・かぐ・味わう・触る」の五感を使って物事を感じ取る。
外国に行った場合、五感のどれかひとつ、または組み合わせで文化の違いなどを感じることが一般的で、日本に来た外国人に印象を聞くと、「静かさ」を挙げる人が多い。
空港に到着して入国手続きを済ませ、預けた荷物を受け取るまでは、どこの国もだいたい同じだ。訪日外国人はその後、バスや電車でホテルや観光地へ移動することが多く、そこで違いを実感することがよくある。
公共交通機関では、母国との違いが簡単に分かりやすい。
日本では、談笑する集団や携帯電話を持って大きな声で話す人、音を立ててゲームをする人はいない(例外はある)。乗客は黙ってスマホをいじったり音楽を聴いたり、目をつぶったりして過ごしているから、音がほとんど聞こえない。
電車や地下鉄の中がにぎやかなのが常識の国では、日本の静けさが印象的で、到着したばかりということもあり、それが日本の第一印象になることもある。その後、日本の社会では「他人に迷惑をかけない」という意識が特に強いと聞くと、すごく納得できる。
以前、アメリカ人とインド人(どちらも30代の男性)と話をしていた時、二人とも日本の電車や地下鉄の「静けさ」はとても印象的だったと話していたが、その感じ方は違っていた。
アメリカ人は「静かなのは居心地が良いし、乗客のマナーの良さを感じる」と高く評価した一方、インド人は「たくさんの人がいるのに音がしないのは不自然で、最初はちょっと不気味に感じた」と言う。
バングラデシュで見た選挙ポスターには、文字が読めない人でも投票できるようにサッカーボールや鳥の絵などが描かれていた。
電車の中は静かで快適だというアメリカ人が、「あれだけは許せない!」と怒りを込めて非難したのが、「選挙カー」。
金曜や土曜の夜はアルコールをしこたま飲むから、翌朝は二日酔いでベッドで死んでいることが多い。だから、「みなさま! お邪魔いたします! ◯◯でございます!」という爆音で叩き起こされると、ものすごく腹が立つという。
しかも、最初は何を言っているのか分からなかったから、知らない間にとんでもない事態が起きて、緊急避難を呼びかけているのかと思って彼は超あせった。でも、窓の外を見てみると、人々はのんびり歩いていて、いつもと同じ朝の光景が広がっている。
知人の日本人に電話して、選挙カーという「敵」の存在を知った。
地震と選挙は似ているらしく、彼が忘れたころに選挙カーがやって来て、週末の朝を破壊されることが何度もあったという。
また、彼が街を歩いていてパチンコ屋の前を通りかかったとき、扉が開いてものすごい音が聞こえてきて驚いた。「ここは何だろう?」と思って入ってみたら、すさまじい音量に耳をやられた。
電車やバスをはじめ、日本の社会はふだんは静かなのに、時々、予想できなタイミングで大きな音が聞こえてくる。このアメリカ人は、そんな音のギャップに日本らしさを感じるという。
その点、インドの街はにぎやかで、彼は騒音には慣れていたから、日本で「騒がしいな」と思ったのはパチンコ屋だけだった。それでも、大音量で音楽を流すヒンドゥー教の祭りに比べたら、大したことはないらしい。
日本の街は静かで、特にクラクションが聞こえないのは感動的だ。インドでは、1日に数え切れないほどクラクションを聞くけれど、彼は日本に3年間ほど住んでいて、1、2度しか聞いた記憶がない。
ボクもインドを何度か旅行したから、彼の話はよくわかる。
インドの社会は人々の話し声や車のクラクション、よく分からないアナウンスが聞こえてきて、とにかくカオスだった。ヒンドゥー教の祭りでは、誇張なしで鼓膜が破れるかと本気で心配になった。
でも、そんな騒々しい環境で育つと、日本の静けさに困ることもある。
彼はインドで生まれてからずっと、天井のファン(いわば巨大な扇風機)をつけて寝ていたので、ファンの回る音を聞きながら寝ることが習慣になっていた。でも、日本では扇風機が小さくて涼しさが足りないし、蚊が入ってくるので窓を開けられない。
それでエアコンをつけて寝ると、部屋がとても静かで、そんな環境で寝たことがほとんどなかったから、最初は落ち着かなくてなかなか眠れなかったという。
耳に聞こえてくる音から、その国の「キャラ」を感じ取ることができる。
日本で生まれ育った日本人には、「日本の音」が分かりづらい。友人のドイツ人は、日本らしい音として、セミの大合唱を挙げていた。
夏が近づくころ、朝起きたら聞いたことのない音がして、冷蔵庫か洗濯機の調子が悪いのかと思ったけど、よく聞くとその音は外から聞こえてくる。それまでの人生で、セミを一度も見たことがなかったドイツ人に、セミの鳴き声なんて分かるわけがない。
これまで外国人から聞いた話を総合すると、日本の社会は静けさがデフォルト(標準)で、オプションとしてパチンコやセミ、選挙カーなどの「音」が出てくる。交通機関の無音も含めて、そんな音が聞こえてくる国は世界で日本しかない。
インドの大都市、コルカタの様子
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