これまでインド各地を旅行して、数十人のインド人と交流してきた経験から、日本人とインド人の価値観や文化の違いには「不確実性」があると断言できる。
たとえば、去年のこの時期にこんなことがあった。
ある日、日本に住んでいる30代のインド人男性から、こんな内容のメールをもらった。
「I would like to invite you to my home on your free day. Please visit our home.」
(あなたの都合のいい日に、ぜひ私の家に遊びに来てください。)
ということで、翌週の土曜日の夜、彼のアパートへ行ってディナーを食べることになった。しかし、その2日前にメールが届き、急に予期できない仕事が入って忙しくなったから、
「Shall we meet on another day in summer」
(また夏にお会いしましょう。)
と、一方的にキャンセルされた。その日は空けていたというのに。
こういうことは珍しくない。「○月○日○時に、○○でディワリ(ヒンドゥー教の祭り)をお祝いします。みんな参加してください!」とSNSで告知があって、3日前に理由も言わずに中止になったこともある。
その連絡をしてくれただけでも良心的だ。イベント当日に会場に行ってみると、何も設置されてなく、主催者にも連絡が取れなくて、そこで初めて中止と分かったというインド人もいた(これはさすがに怒っていた)。
日本人に比べると、インド人は時間に遅れたり、約束をドタキャンしたりすることが多いと、天地神明に誓って言うことができる。ポジティブに言い換えれば、彼らは「つまづいたっていいじゃないか人間だもの」という、他人のミスを気にしない寛大な心を持っている。
最近、インド人のこうした精神が個人レベルだけでなく、世界が注目する舞台でも明らかになった。
現在、大阪で開催されている万博では、世界各国のパビリオンがあり、来場者はユニークな体験を通して、それぞれの国の文化や技術を知ることができる。その中で、インド館は始まる前から「らしさ」を爆発させ、キャラが立っていた。
開幕の数日前、インド館は足場や配線がむき出しで、開幕までに完成する気配は1ミリもなく、日本人の建設現場のスタッフも「頑張っているが、厳しい」と険しい表情を浮かべていた。しかし、インド館の担当者は日本メディアの取材で「間に合う間に合う、ぜんぶ間に合う」と余裕そうに答え、別の担当者も「100%間に合います」と自信満々に言った。
担当者は、いま24時間体制で作業していると説明し、親指を上にあげて笑顔を見せた。
突貫工事の結果、5月1日に万博が始まると、インド館には一部に未完成ゾーンもあったものの、来場者を受け入れることができた…という展開にはならず、開幕から1週間たっても絶賛工事中のまま。
このためにインドから来たインド人は「閉まっていて残念です」と肩を落とす。
しかし、日本人の中には一周回って、工事中のパビリオンに魅力を感じて、「サグラダ・ファミリアみたいに、いつまでも作り続けてたらいい」という人もいた。
*サグラダ・ファミリアはスペインにある世界遺産で、140年以上も建設が続いている。
たくさんの人がSNSに未完成の外観を投稿して、みんなでインド館の進捗状況を見守るという変な状況が生まれる。開幕から2週間以上も遅れ、ついにパビリオンが開館した時には、ネット上で「クララが立った!」のような感動的な雰囲気が広がった。
海外の万博で、日本館が開幕に間に合わなかったら、担当者は「ご迷惑をおかけして申し訳なく思っております」と平謝りになるだろうが、インド人は違う。そんな豆腐メンタルを持ってなく、彼らのハートはオリハルコン製だ。
インド総領事のチャンドルさんは、日本のメディアから、公開が遅れたことについて質問されると、
「2週間でできたし、遅れたと思っていません。完成して本当にうれしいです」
と、さわやかなドヤ笑顔で答えた。その態度は、ボクが知っているインド人そのもので、親しみを感じた。
インドでタクシーとして使われる三輪車の「オートリキシャ」。日本語の「人力車」に由来していて、自動で動くことからこの名前がつけられた。
インドを旅行していると、今回の「100%間に合う」みたいに、インドの人たちから「ノープロブレム」を連発される。その言葉を「大丈夫」と解釈し、大変なことになった経験は数え切れない。
たとえば、こんなことがあった。
列車に乗るためにオートリキシャをつかまえて、「〇〇駅まで行きたい。道は分かりますか?」と聞くと、「ノープロブレム、早く乗れ」と迷いなく答えるドライバーが、実は道を知らなかった。
指定された列車に乗り遅れたら、再度チケットを買わないといけなくなるし、空席がなければ何日も待つことになる場合もあるから、次の滞在先でホテルなどを予約していると、時間と金をムダにしてしまう。
それにもかかわらず、ドライバーは何度もリキシャを停めては通行人に道を尋ねていた。嫌な予感がして、「チョット待って。駅の場所を知らないの?」と聞くと、ドライバーは「ノープロブレム」とだけ答える。
結局、駅に着いたのは出発時刻の後で、「完全に詰んだ…」と絶望したら、列車はもっと遅れて到着したから、無事に乗ることができた。
インド人と付き合っていると、彼らと日本人では「問題」の解釈が違うとよく感じる。時間がかかっても、パビリオンが開館したり、駅に着いたりすれば、それは「ノープロブレム」だ。インド人の感覚からしたら、2週間の遅れなんて大したことではなく、問題にならない。日本人とは求める水準が違う。
だから、インド人に「ノープロブレム」と言われても、それがうまくいくか、トラブルが起きるかはその時になってみないと分からない。確実なのは、そう言った人は絶対に責任を取らないということ。
インド人の言うことは基本的に不確実で、どうなるかはその時になってみないと分からない。そんな経験を何度もしたから、ボクの中で「ノープロブレム」の正しい日本語訳は「衝撃に備えよ」となっている。つまり要警戒だ。
インドを旅行するなら、彼らの言う「100%大丈夫」は不幸フラグと考えて、そうならなかった場合のオプションを考えておいたほうがいい。
インド人に誘われてドタキャンされても、最初からそれを想定してプランBを用意しておけば、衝撃を最小限に抑えられる。そんなことに怒っていたら、インド人とは付き合えない。
コメント