在日インド人は、イスラム教徒の路上礼拝やハラル給食をどう思う?

昨年、インドである女優が政治家に転身しようとしたところ、インドらしい理由でピンチに追い込まれた。それは、「彼女は牛肉を食べている」というウワサを流されたこと。
牛を神聖視するヒンドゥー教徒にとって、牛肉を食べることは宗教をぼう涜する行為で、政治家にとっては重大なスキャンダルになる。
(超例外的に牛肉を食べるヒンドゥー教徒もいる。)
彼女は「誇り高きヒンドゥー教徒」をアピールし、一切の肉を食べないベジタリアンの生活をしていると強調した。
おそらくインド人の感覚では、有名人が大麻を吸うことより、牛肉を食べることのほうが罪深いと思われる。

さて、今回話を聞いたのは、日本に8年住んでいる30代のインド人女性だ。ここでは、彼女の名前を「ララァ・スン」としよう。
ララァは静岡の大学を卒業したあと外資系企業に就職し、いまは東京に住んでいる。インド南部の都市ベンガルール出身で、ヒンドゥー教を信じるインド女性に多文化共生について聞いてみた。
※以下は彼女の経験にもとづく意見で、インドは広いから地域によって違いがあると思われる。)

 

ーー最近、日本に住むイスラム教徒が路上で集団礼拝している動画が出回っている。ララァはこれを見てどう思う?

まず、外国人が別の国で暮らすには、その国のルールにしたがって行動することが一番大切。日本で礼拝するために道路を使いたいなら、日本の警察に届けを出して許可を取ることが最低限の条件になる。でも、動画は一部を切り取ったもので、許可をもらったかどうか分からないから何とも言えないなー。

「ガネーシャ・チャトゥルティ」って知ってる? ベンガルールにはガネーシャ神のお祭りがあって、ものすごい数の信者が大きなガネーシャの像と一緒に街中を行進するの。その祭りをするためには、事前に当局に届けを出して道路の使用許可をもらって、関係ない通行人には別の道を使うように案内を出すの。インドにはさまざまな宗教の人がいるから、自分と違う信仰を持つ人に配慮しないといけない。

路上での礼拝については、もし彼らが許可を取っていたとしても、わたしは賛成できない。自分がその場所を歩いていたら、通行の邪魔になるから率直に「迷惑だな」って思う。
どこの国にいても信仰を続けることは大切で、それはその人の基本的人権にかかわることだから保護されるべき。でも、方法はその国の文化に合わせる必要がある。
わたしは日本にいるときは、アパートの神像にお供え物をして静かにプージャ(祭り)をしている。祈りは神への個人的な行為だから、集団で行う必要はないと思う。
インドの「ガネーシャ・チャトゥルティ」はとても騒がしいから、日本でそのまま再現するのは絶対に反対。異国に母国と同じやり方を持ち込むと摩擦が生まれるから、柔軟な発想で迷惑をかけない方法を考えないといないでしょ。
少なくともわたしはそうしている。

 

ーー日本の学校に通うイスラム教徒の保護者が、豚肉やアルコールを口にすることができないため、それに配慮した「ハラル給食」を出してほしいとリクエストした。そのことについてララァの意見は?

インドの学校では給食はなかったから、そんな問題も起きなかった。ヒンドゥー教徒の中でも、牛や豚はダメだけどチキンなら食べられる人、肉はダメだけど卵やチーズはOKの人、肉も乳製品も一切ダメというヴィーガンの人とか、いろんな食のルールを持つ人がいる。
インドの学校でイスラム教やほかの宗教、アレルギーに配慮した食事を提供するの無理だから、子どもたちはお弁当を持ってきていた。

みんなとまったく同じものを食べることはなかったけれど、お弁当の中身を「わけっこ」してシェアして食べるのは楽しかったな。わたしの家族はチキンを食べることができたけど、母はわたしが学校で友だちと弁当をシェアできるようにベジタリアン用の食べ物を入れてくれていた。
両親は共働きだったけど、母は毎朝お弁当を用意してくれた。自分も同じ立場になったらそうするつもり。朝早く起きるのが大変なら、前の日の夜に作っておけばいい。インドではみんなそうしているし。親としての責任や信仰を守ることを考えたら、「忙しい」は理由にならないよね。

 

 

インド 目次 ③

日本人のルール遵守 インド人的に良き点/理解できない点

パンと米の食文化 日本人は「無知」とインド人が言ったワケ

インド人が絶賛する日本社会 ワイロはなくても“恥”はある

【ヒンドゥー教と神道】もしインド人を神社へ連れて行ったら?

「日本人のインド観」に南インド人が戸惑うわけ

【文化の違い】インド人が日本で墓地を怖がる理由とは?

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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