日本に来て、すぐに「奇跡」を体験する外国人は珍しくない。
知人のイギリス人女性は日本の学校で英語を教えていて、数年前、母親が彼女を訪ねてイギリスからやって来た。
東京の空港から入国して、電車で浜松市までやって来た母親は、久しぶりに娘と会ってハグをした後、
「成田空港からここまで何回か乗り換えて来た。その間、1分の遅れもなかった!」
と、時間厳守の運行に衝撃を受けたという。この母親の感覚では、イギリスの鉄道で同じことが起きたら、“事件”になる。
興奮する母の様子を見て、彼女もすっかり忘れていた初心を思い出した。
日本で鉄道の歴史は、1872年(明治5年)に新橋ー横浜間で初めて開通したことから始まる。この時代、日本の“先生”は鉄道先進国だったイギリスで、明治政府に雇われ、鉄道開通の指導を行ったイギリス人のモレルは「日本の鉄道の恩人」と呼ばれている。
エドモンド・モレル
日本側は当初、イギリス製の鉄製の枕木を使う予定だった。しかし、「森林資源の豊富な日本では木材を使った方が良い」とモレルがアドバイスしたことで、国産の木製に変更した。これにより予算をカットでき、その後の鉄道敷設にも役立った。
早川 徳次
19世紀の大英帝国は世界的な技術大国で、鉄道だけでなく、世界で初めて地下鉄も開通させた。1863年にロンドンでメトロポリタン鉄道が登場し、地下鉄の歴史が始まった。
現在、世界中で地下鉄を表す「メトロ(Metro)」という言葉は、メトロポリタン鉄道に由来している。
日本では、1914年に実業家の早川徳次がイギリスへ行き、ロンドンの地下鉄を見て衝撃を受け、東京にも地下鉄を建設しようと考えた。渋沢栄一の協力を得て、1927年に浅草駅から上野駅まで開業させた(現在の東京メトロ銀座線)。その功績から、早川は「地下鉄の父」と呼ばれている。
それから約100年の年月が流れ、鉄道開業を指導してくれ、地下鉄のインスピレーションを与えてくれた国に「恩返し」をする時が来たようだ。
テレ朝NEWS(2025/05/26)
東京メトロがロンドンの大動脈・地下鉄運営開始 日本の“当たり前”に利用客も期待
ロンドン市内を東西に横断し、世界中の人を国際空港のヒースロー空港からロンドン市内へ運ぶ地下鉄「エリザベス線」の運営が、東京メトロにまかされることとなった。
ここはロンドンの大動脈で、最も乗客数が多い路線の一つ。
エリザベス線の利用客は、日本企業が運営することになったことを好意的に受け止め、次のように話している。
「より効率的だと思います。ロンドンの列車は非常に効率が悪いです」
「知りませんでした。日本は電車の時間に正確です。私たちの国でも知られています」
ロンドン市交通局は、定時運行と優れた顧客サービスを提供できることを条件に、世界中から日本企業を選んだ。この世界都市で実績を積み、信頼を得ることができれば、他の国で日本の運行システムが採用されるかもしれない。
でも、そうなると、イギリスが日本へやって来て、「これは“事件”よ!」と興奮することもなくなるかも。
とはいえ、1分単位で正確な運行には、乗客一人ひとりがマナーやルールを守ることが必要になるだろうから、日本の奇跡はまだ続きそうだ。
東京で地下鉄が開通したころのポスター
東洋唯一の地下鉄道!
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