何年か前、世界中のホテルを対象にして行った「最も歓迎するお客さん」のランキングで、日本人がトップか、トップクラスに入った。
その理由の一つは、日本人は怒らないから。他の外国人だとすぐに苦情や不満をぶつけることがよくあるけれど、フロントスタッフを問い詰めること日本人は少ない。しかし、そんな穏やかな日本人を激怒させる地雷がある。
最近、世界的なプロeスポーツチーム「チームリキッド」が日本チームに負けた後、所属していたブラジル人選手がSNSに原爆投下を再現した映像を投稿し、批判が殺到した。
「日本に負けたことが悔しくて、感情を抑えられなかった」と素直に認めて謝罪すればよかったのに、この選手は「日本チームの力が爆発したこと」を表したのだと釈明し、投稿を削除。その後も、「不快な表現を意図したわけではない」が、不適切な投稿だったと自分の責任を認めない謝罪文をSNSに投稿した。
しかし、「チームリキッド」とスポンサー契約をしているホンダは許さなかった。アメリカンホンダモーターは「当該行為はホンダの企業価値と相容れないものであり容認できない」と、公式サイトで契約解除を決めたと発表した。
原爆爆弾やキノコ雲を揶揄(やゆ)する行為は、日本人には絶対に受け入れられない。ネットを見ても、ほとんどの人がホンダの反応を過剰だとは思わず、当然のことだと考えている。
・ホンダがスポンサーなのに軽率過ぎだわ
舐めすぎ
・ナイス判断
・絶対問題なるのにアホすぎるw
・負けて煽るのダサくね?
・はだしのゲン読んで感想文書いてこい
*この後、犠牲者の写真が出てくるので心の準備を。


日本は世界で唯一の被爆国だから、日本人が原爆について他の国の人よりも敏感になるのは仕方ない。昔からそうだっただろうけど、最近はその感覚がもっと強くなっている気がする。
昭和の時代、プロレスラーが使う必殺技「ジャーマン・スープレックス」を「原爆固め」と呼んでいた。日本のメディアは「ジャーマン・スープレックス」ではインパクトが弱いと考え、アメリカでは「アトミック・スープレックス」と呼ばれていることから、「原爆固め」と名付けられたという。(ジャーマン・スープレックス)
しかし、社会の空気が変わり、この言い方は被爆者への配慮に欠けるとされ、「原爆固め」は使われなくなった。
また、昭和の有名レスラー・大木金太郎の得意技は「原爆頭突き」と呼ばれ、彼のリングガウンには原爆投下のキノコ雲を連想させるデザインが描かれていた。
現在に比べれば、原爆に対するこの時代の感覚はかなりユルかった。
1976年、広島の高校が甲子園で優勝したとき、日本の大手メディアは「原爆打線」と報じた。
2023年にアメリカで、アメリカで「原爆の父」と呼ばれるオッペンハイマーの映画と、バービー人形を題材にした実写映画『バービー』が同じ日に公開され、シリアスとコメディという真逆の内容の映画が同時に公開されたことが話題になり、「バーベンハイマー」という社会現象が起きた。
その際、ネット上で、笑みを浮かべるバービーとキノコ雲を組み合わせたファンアートが出回り、『バービー』の公式アカウントが「It’s going to be a summer to remember(思い出に残る夏になりそう)」と好意的な反応を見せると、日本人が激怒した。「報復」としてアメリカ同時多発テロ事件と『バービー』を組み合わせる画像を作る人もいたが、これはやり過ぎ。
『バービー』の日本公式がこの事故に巻き込まれ、「アメリカ本社の配慮に欠けた反応は、極めて遺憾なものと考えており、不快な思いをされた方々にはお詫び申し上げます」と謝罪した。『バービー』は全世界でヒットしたが、日本では爆死に終わった。
この騒動があった時、日本に住んでいた外国人に意見を聞いたことがある。彼らは原爆ドームや資料館に行ったことのあるアメリカ人、インド人、トルコ人などで、国籍や宗教はバラバラだったが、バービー&キノコ雲のファンアートについては「ドッカーン!みたいな勢いがあって良いと思う」とみんな好意的だった。
しかし、そのキノコ雲の下に多くの死体が転がっている「画」は誰も想像できず、日本人の反応を知った後で初めて「不適切」という見方も理解できるという反応が多く、一般的な日本人とはかなりの温度差を感じた。
原爆投下を「日本チームの力が爆発したこと」を表現したとしたブラジル人選手は特別な存在ではなく、世界的には、この人類の悲劇を軽く考えている人は少なくない。「原爆固め」や「原爆打線」と平気で言っていた昭和の日本人もそれに近い感覚を持っていて、原爆投下への日本人の敏感度や忌避感はだんだん増している気がする。
令和のいま、もしメディアが広島の高校に「原爆打線」と命名したら、前代未聞の騒ぎになる。

コメント
コメント一覧 (2件)
そうですね、「原爆固め」や「原爆打線」は少なくともその言葉がマスコミに登場した時点では、さほど世間から拒否感を示されることはなかったと思いますが・・・。
そうではなくて、TVでの放映直後に「これはひどい!」と世間から抗議が殺到したのは、ウルトラセブンの「ひばく星人」です。新型爆弾の実験に被爆してしまった宇宙人が、健康回復のために地球人の血液を集めるという話で。その宇宙人の姿がまた、全身ケロイドに包帯をぐるぐる巻きしたような・・・。
あれは「いくら何でもひどい」と子供心に私も思いました。
「ひばく星人」は知りませんでした。これはひどいですね。いま見たら、放送禁止になったようです。昭和の日本人のほうが原爆被害について身近に感じていたはずなのに、けっこう気軽にこの言葉を使っていますね。意外です。