インド人とスパイス 料理好きのインド人女性が日本で感じた最大の不満

ナイフや銃を使って相手を脅し、金を奪う強盗事件は聞いたことがあるけれど、こんなやり方は初耳だ。

読売新聞の記事(2025/06/09)

社長の顔にスパイス塗り、780万円入りバッグ奪おうとしたか…容疑でインド人ら逮捕

埼玉県で会社の社長が道を歩いていたところ、インド人ら4人が現れて、いきなり顔にスパイスの粉を塗ってきた。男たちは、社長が持っていた約800万円入りのバッグを奪おうとしたが、社長が必死に抵抗したため、何も取れずにそのまま逃走。
この「スパイス攻撃」で、社長は目に全治およそ2週間のけがを負ったというから、もしデスソースだったら、きっとさらに酷いことになっていた。
この事件がトラウマになったら、社長はしばらくの間、日本人の国民食であるカレーを食べられなくなるかもしれない。

昔、韓国を旅行中、日本語ガイドからこんな話を聞いた。16世紀の朝鮮出兵のとき、日本軍が唐辛子を目つぶしの武器として使ったのがきっかけで、その後、朝鮮半島で唐辛子が広まったという。
スパイスは料理だけじゃなく、使い方しだいで武器にもなる。

朝鮮出兵の武器 日本軍の“唐辛子” VS 朝鮮軍の“うんこ砲”

 

 

インド人とスパイス(カレー)の関係は、ドラえもんと四次元ポケットのようなもので、切り離すことはできない。スパイスという要素が無くなると、二次元創作でインド人のキャラ設定はすごくむずかしくなる。
日本食で例えるなら、スパイスは味噌やしょう油のような必須の調味料で、それが無くなったらインドの食文化は成り立たない。ちなみに、インドには味噌やしょう油のような発酵調味料はないというのはマメ。
インド人にとってスパイスは生活を超え、生存に欠かせないマストアイテムだ。

以前、料理を作ることが好きなインド人女性が日本に住んでいた。あるとき彼女と話をしていて、日本の生活で感じる最大の不満を聞いたところ、こんな答えが返ってきた。

「スパイスがないの!」

 

カルダモン、クミン、シナモン、コリアンダー、クローブ、ターメリック…とスパイスは千差万別で、いろんな種類がある。
その女性は、それぞれのスパイスの味だけでなく、体への効果もよく知っていた。たとえば「最近、なんか疲れやすい…」と感じたらスパイスA、「胃が重い」と思ったらスパイスB、というように、そのときの体調に合わせてスパイスの種類と量を変えてカレーを作っていた。
複数のスパイスを組み合わせることで、さらに効果的でおいしいカレーを作り出すことができ、彼女はそれが得意だったから、たくさんのスパイスを必要としていた。
(目つぶしに特に効果的なスパイスもある?)

日本の料理にもワサビなどの薬味はあるが、インドカレーに使うようなスパイスは無いか、少なくとも一般的ではない。、ふつうのスーパーではあまり売っていない。日本料理の特長は、素材が本来持っている味を引き出すことにあるから、香りや刺激の強いスパイスを使うインド料理とは根本から考え方がちがう。
彼女が住んでいたアパートの近くにあるスーパーやコンビニでは、本格的なスパイスは売っていなかったから、インド料理店に行って買うか、オンラインで注文するしかなかった。
でも、それらのスパイスは質が良くなくて、インドで使っていたものに比べると「劣化バージョン」だったから、とても満足できなかったという。

 

彼女がインドにいたときは、よく市場に行ってスパイスを買っていた。そこには色とりどりのスパイスが山のように並んでいて、見たり、においをかいだりして鮮度や質を自分で確かめることができた。店(流通経路?)によって、スパイスの保存状態がちがうから、美味しいカレーを作るためにはそれも確認する必要がある。
場所も重要な要素だ。インドは日本の約9倍の広さがある国で、気候もいろいろ。ワインと同じように、同じスパイスでも産地によって香りや味にちがいが出るという。
彼女は「このスパイスならグジャラート産」、「これはカシミール産」といった感じで、産地にもこだわっていた。

彼女にとって、たくさんの種類のスパイスがあって、さまざまな香りが鼻をくすぐるスパイス・マーケットは、歩くだけで幸せな気分になれる天国だった。でも、日本ではそれがない。どかかにあるかもしれないが、彼女が日本でそんなところと出会うことはなかった。
日本で手に入るスパイスは新鮮さに欠けて質も落ちるため、自分が満足できるカレーを作ることが難しい。
しかも、スパイスは最初からパッケージに入っているから、インドのように量り売りで、その時に必要な分をグラム単位で買うことができない。

 

カルダモン、クミン、シナモン、コリアンダー、クローブ、ターメリックと聞いて、それぞれの見た目や味、効果がわかる日本人なんて例外中の例外。そんなスパイス・マスターはもう「精神インド人」だ。
彼女はインド人の中でも料理好きで、さまざまなスパイスを組み合わせて、その時の自分の体調や気分に合ったカレーを作ることができたのに、日本では、そんな才能をほとんど封印されていた。いろんなスパイスを試して、さらに知識を深めることもできずにいた。
そんなことから、日本での生活でいちばん大きな不満は、「思いどおりのスパイスが手に入らないこと」と彼女はグチをこぼす。
スパイスについて日本は「不毛国」だから、スパイスへの愛ゆえに苦痛を感じるインド人もいる。といっても、ここまでの不満を言っていたのはこの女性しかしらない。

 

 

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