【日独関係】開国する前から日本人は交流し、ドイツ医学を学んでいた

日本とドイツの関係は、プロイセン王国と日普修好通商条約が成立した1861年にはじまると、一般的には思われている。でも、それは「公式」なもので、日独の交流は江戸時代に“こっそり”とはじまっていた。
ケンペル、ツンベルク、シーボルトの3人は、西洋社会に日本の事情をくわしく伝えた「出島の三学者」として知られている。

江戸時代、幕府は鎖国政策をとっていたため、オランダ人しか入国することはできなかった。そのはずだったのに、ケンペルとシーボルトはオランダ人ではなく、ドイツ人(ドイツ語圏出身)だった。
※ツンベルクはスウェーデン人だから、「三学者」にオランダ人は1人もいない。
彼らは自分をオランダ人だと日本側にウソをついていて、日本人は知らないうちにドイツ人と交流していたことになる。
1823年のきょう8月12日、三人衆がひとり、シーボルトが医師として長崎の出島にやって来た。

オランダ語とドイツ語は言語的に近いため、ドイツ人がオランダ語を習得することは、ほかの言語に比べれば簡単だ。話し言葉よりも、書き言葉のほうが理解しやすいらしい。オランダの国境の近くにいるドイツ人なら、より早くマスターすることができる。
だから、長崎にいた通訳の役人がケンペルやシーボルトのオランダ語を聞いて、もし「アヤシイ…」と思ったとしても、「方言です。気にしないでください」と言われたら、「そっかー」で終わったはずだ。
江戸時代には住んでいる藩が違えば、言葉が通じなくなることも珍しくなかったのだから。

 

八重洲(やえす)はオランダ人のヤン・ヨーステンに由来している。

 

昔読んだ小説か何かにこんな場面があった。
ある男性が体調不良を感じたため、病院で調べてもらった後、医者と話をしていて「大丈夫ですよ。」と言われた。しかし、手元のカルテに「Krebs」という文字が書かれているのを見て、彼はすべてを理解した。
ドイツ語でガンを「クレブス」と言って、彼はドイツ語の読み書きができたため、真実を知ってしまったーー。

現在では「カルテ」ぐらいしか残っていないかもしれないが、日本では一時期、カルテの内容をドイツ語で書く習慣があった。
ネットを見ると今でも患者を「クランケ」と呼んだり、患者が亡くなると「ステルベン(死亡、死亡する)」を使って「ステる」と呼んだりする病院があるらしい。
医学用語でドイツ語が使われていた理由は、明治日本がドイツに近代医学を学んだから。
明治時代に最高階級の軍医総監をつとめ、日本の軍医制度の基礎を確立した人物に石黒忠悳(ただのり)がいる。森鴎外をドイツに留学させたのも彼だ。
石黒が記した自伝『懐旧九十年』を読むと、日本がドイツ医学を学ぶようになった背景がわかる。

日本を開国させたのはアメリカだったことから、明治の日本では、「西洋の知識は英語で学ぶべき」という空気が強かった。特に発言力の強かった福澤諭吉はアメリカを崇拝していたため、文部当局も学術のすべてを英米から学ぶことにしたという。
医学もそうなるはずだったけれど、蘭学出身の石黒たちの考えは違って、それはドイツに学ぶべきだと確信していた。
当時、ドイツ医学は世界的に見ても進んでいたし、江戸時代に日本人が蘭学として学んでいた医学は、じつはドイツ語をオランダ語に訳した書物だった。日本で初めて刊行された西洋医学書「解体新書」も、原本はドイツ人の医師が書いた書物だ。

日本人が気づかなかっただけで、日本は蘭学を通じてドイツ医学を学んでいた。
背景としては、日本人がドイツ人のケンペルとシーボルトをオランダ人と思って交流していたことと似ている。日本は開国する前から、ドイツとはステルス的に関係をもっていたのだ。

 

おまけ

「おてんば」と「やんちゃ」という言葉の元ネタはオランダ語にある。
「飼い慣らすことができない」という意味の「ontembaar(オンテムバール)」と、ヤンという男の子の名前の愛称「Jantje(ヤンチェ)」がおてんばとやんちゃの由来となった。
江戸時代に日本語化したのだろう。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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