日本人として、ぜひ知っておいてほしいことがある。
2日前の16日、和歌山県で駐日トルコ大使などが出席して、135年前に起きた「エルトゥールル号遭難事件」の犠牲者を追悼する式典が行われた。
1890年(明治23年)のこの日、和歌山県・串本町の沖合でトルコの軍艦「エルトゥールル号」が遭難し、500人以上が亡くなった。が、地元の住民が懸命に救助活動をして、69人の命を救った。これが、日本とトルコの友好関係の大きなきっかけとなっている。
義理堅いトルコの人たちは、100年後にきっちり恩返しをしてくれた。
日本とトルコの良き関係:和歌山の恩を100年後、イランで返す
さて、今回のゲストは、日本の大学を卒業した後、そのまま日本の会社に就職したトルコ人女性だ。日本に5年以上住んでいる彼女は日本語がペラペラで、政治や宗教といった小難しい話もできる。
そんなトルコ人と話したテーマは「信仰」だ。
なお、以下の内容は、彼女の個人的な意見や見方であることを理解してほしい。

オスマン(トルコ)帝国時代の衣装
ーー毎年、8月のくっそ暑い中、あの世から死者の霊が戻ってくる「お盆」というイベントがある。日本に5年近くいたら、これは知ってるよね?
知ってるー。霊がキュウリの馬に乗ってやってきて、ナスの牛に乗って戻っていくやつ。
ーーそう、精霊馬。そこまで知ってる外国人は珍しい。
それは日本に来る前から知ってた。トルコにいたとき、『鬼灯の冷徹』を見て大好きになって、その中でお盆が出てきたから。
ーーアニメの影響力はすごいな。まぁ、金閣寺を見て「一休さんのお寺だ!」と言った知人のタイ人みたいに、デタラメな知識を持ってる人も多いけど。『鬼灯(ほおずき)の冷徹』は日本文化を知る良いテキストだね。
で、トルコにも死者の霊が戻ってくる日はある?
トルコでは99%の国民がイスラム教を信仰していて、その考え方ではお盆みたいな日はない。人が死んだら、魂は『審判の日』が来るまで眠っているから。世界が崩壊して神(アッラー)が現れると、死者が復活して裁きを受け、天国か地獄へ行く。その日まで、魂はどこにあるんだろう? この世とあの世のあいだかな。
ーー日本の仏教なら、それは「中陰」だな。人が死ぬと、魂は閻魔大王なんかに裁かれて次の行き先が決まる。その裁判の期間が49日間で、死者はこの世と来世のあいだにある中陰という空間(状態?)にいる。
イスラム教の場合、「審判の日」が来るまで魂がずっと中陰にいるような状態で、まだ誰も次の世界に行っていない。それなら、この世に戻ってくることもないか。
※パキスタン人のイスラム教徒からは、人は死んだらすぐに裁きを受けて天国か地獄へ行くという話を聞いた。この辺の考え方は人や地域によって違うかもしれない。
イスラム教では一般的に、人間が死ぬと魂は肉体から切り離され、「バルザフ」という中間的冥界に行き、そこで審判の日まで待機することになっている。
日本の仏教でたとえるなら、このバルザフが中陰だ。
イスラム教の死に対する見方は「Islamic view of death」にくわしい説明がある。

イスラム教の死の天使・アズラーイール
でも、「強い思い」のある霊は眠ることができないから、この世をさまよっているらしいよ。たとえば、親や祖父母が子どもや孫のことが気になると、その思いが霊になって、気になる人のそばにいて見守っている。
ーー亡くなっても無くならない、か。日本でも「草葉の蔭から見守る」と言って、そういう考え方はある。
誰かが夢に出てくると、その人は『自分のために祈ってほしい』と訴えているって話を聞いた。私はおばあちゃんの夢をよく見るから、おばあちゃんの霊がいつもいるように感じている。事故にあっても、小さなケガで済んだら、おばあちゃんの霊が守ってくれたと思う。
だから、夢におばあちゃんが出てきたり、命日になると彼女のために祈るの。日常生活でも寝る前に、平安な生活を支えてくれる彼女に感謝することがある。
ーーそれはハートウォーミングな話は『夏目友人帳』でありそう。
でも、殺されて強い恨みがあった場合も、霊はこの世にとどまっているんだって。
ーー日本の信仰でいうなら怨霊か。その信仰は古代からあって、今でも日本人に影響を与えている。
話を聞いていて思ったんだけど、「強い思いがあると霊になる」という話は日本の信仰と似ていて、イスラム教の考え方からは離れている気がする。これはトルコ民族がイスラム教を受け入れる前に信じていた信仰や思想の影響じゃない?
その可能性はあるだろうねー。もともとトルコ人は中央アジアにいて、シャーマニズムの要素が強い『テングリ』の信仰を持っていたし。
ーー仏教の考え方では、人は死ぬと生前の善行/悪行に応じて、別のナニカに生まれ変わることになっている。だから、ミャンマー人にお盆の話をしたら、「輪廻とお盆は矛盾していませんか?」ってツッコまれた。「草葉の蔭から見守る」という考え方は、仏教の前から日本人が信仰していた神道の影響だと思ってる。
へ〜、そうなんだ。『鬼灯の冷徹』でそんな説明はなかったから、知らなかった。
ーー地理的にみると、今のトルコには1453年まで東ローマ帝国があって、キリスト教が支配的だった。トルコには、イスラム教の影に隠れて、いろんな宗教の影響が残っているのでは?
その意見には賛成だよ。トルコのイスラム教の考え方は、アラビア半島のイスラム教とは違う。その理由は、色々な宗教の要素が含まれているからだと思ってる。
おまけ
「hurriyetdailynews」に、トルコのチョルム(Çorum)県で、ミステリアスな少女の霊が現れ、地元の人たちがパニックになったという記事がある。(2018年5月2日)
Mysterious crying girl in Çorum cemetery stirs panic among locals
墓地の職員がある女性のお墓の前で、15歳ほどの黒い服を着た少女が泣いているのを目撃した。その後、その少女は何度か現れては、墓地の中に姿を消す。職員はその墓に「助けてあげたい」というメモを残し、幽霊について警察に通報した。
この噂に地元はパニックに陥ったという。
その少女には何らかの強い思いがあって、安らかに眠ることができなかったに違いない。

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