日本の多文化共生 イスラム土葬墓地が失敗に終わるわけ 

日本の埋葬には火葬や土葬があるのは知っていたけれど、最近はそのほかに、宗教の考え方を原因とする「闇土葬」が増えているらしい。
今回は、日本の多文化共生について考えてみようか。

目次

息子の日本行きに、母親が泣いたわけ

以前、SNSでこんな話を見かけて異文化を感じた。

戦後、あるヨーロッパ人(たしかイタリア人)の神父が、キリスト教の宣教のために日本へ派遣されることになった。母親はその知らせを聞いて、驚いた後、涙を流し始めた。母は日本が土葬の国だと思っていたので、もし息子が日本で死んだら、遺体が焼かれてしまうと思い、ショックを受けたという。

キリスト教では、人は死んでも、いつか肉体とともに復活し、神の裁きを受けることになっている。そのため、土葬して肉体を「保存」しないといけない。火葬して肉体を失うと、天国に行けないと考えられている。
とはいえ、現代の欧米では「キリスト教離れ」が進んでいて、土葬にこだわらず火葬を希望する人も多い。

いつか世界が終わり、神によって裁かれて天国か地獄に行くかが決まるーー。
そんな「最後の審判」の考え方はユダヤ教、キリスト教、イスラム教のいわゆる「アブラハムの宗教」に共通している。
イスラム教の聖典クルアーン(コーラン)には、「現世で罪深く過ごした人間は地獄の炎で焼かれる」と書かれている。イスラム教徒にとって火葬は地獄を連想させるため、大きな恐怖と禁忌の対象となっているらしい。
いっぽう、仏教やヒンドゥー教では、人は死んだら生まれ変わる「輪廻」の考え方がある。ヒンドゥー教の聖職者から聞いた話によると、遺体を燃やし尽くすことで魂が解放され、次の世界に行くことができるため、肉体は完全に消滅させる必要がある。

日本における火葬と土葬の歴史

日本でも古代は土葬が一般的で、古墳時代には権力者のために大きな墳墓が築かれ、遺体はそこに埋葬されていた。記録に残る日本初の火葬は、今から約1300年前の白鳳時代におこなわれ、仏教僧の道昭(どうしょう)の遺体が焼かれた。

【死の文化】日本初の火葬は700年・遺体を火で燃やす理由

奈良時代から、仏教の影響を受けて火葬が増えたが、その「立派な終わり」を迎えるのは上級国民だけで、庶民は野外に遺棄されることも多かったという(日本の埋葬の歴史)。
明治時代、政府が神道を優遇し、仏教は否定的に見られたため、政府が1873年に火葬禁止令を出したことがある。しかし、こんな動きは例外的で、日本は伝統的には土葬の国だった。
火葬される割合は、1950年に54%という数字があるから、火葬が土葬を上回るようになったのはそのころだろう。現在の日本は火葬が99・9%以上を占める火葬大国だから、アブラハムの宗教とは相性が悪く、この文化の違いが大きな社会問題になっている。

「闇土葬」問題

火葬や土葬は知っていたが、「闇土葬」という言葉を最近初めて知った。日本にもキリスト教徒やイスラム教徒がいて、土葬は法的に認められている。全国には土葬可能な墓地が10カ所ほどしかなく、日本に住むイスラム教徒は30万人を超えているため、墓地の数は圧倒的に少ない。
そんな背景から、法を無視して強引に遺体を埋める「闇土葬」が増えていると、現代ビジネスの記事に書かれている(2025年10月1日)。

〈14体もの遺体を重機で勝手に土葬〉…在日イスラム教徒による「闇土葬」に霊園管理者が「怒りの告発」

外国人のイスラム教徒が埼玉県にある土葬可能な墓地に、無断で14体の遺体を土葬していたことが発覚。
この「闇土葬」は警察沙汰になり、ムスリム側と霊園側が話し合った結果、「200万円を支払う」ということで落ち着いた。しかし、彼らはお金を払わず、連絡も取れなくなって姿を消したという。
遺体が遺棄されたも同然で、霊園は怒り心頭だ。このニュースを知って、ネット民も怒りを爆発させている。
母国に遺体を送るには多額の費用を必要とするが、日本での埋葬はとても難しい。ムスリム側の事情は理解できるが、闇土葬は論外だ。こうした違法行為が事態をより悪化させている。

このところ日本では、イスラム教徒のための墓地を建設する動きが浮上しては、消えている。大分県で土葬墓地を建設する計画がスタートしたが、地元住民から猛反発を受け、去年その計画は中止された。
宮城県の知事も土葬墓地の整備を訴えたが、県庁への抗議が殺到し、先月9月に撤回した。知事としては、外国人労働者を受け入れるための選択だったが、市民の拒否感は想像以上に大きかった。

日本でイスラム土葬墓地が失敗に終わるわけ

日本で土葬墓地を建設するには、周辺住民や日本国民の理解を得る必要がある。
「郷に入っては郷に従え」というのは世界中で通じる多文化共生の黄金ルールで、日本で日本人の理解を得ずに何かをすることはできない。それは、上記の挫折事例からもわかる。
それにもかかわらず、メディアの報道では、日本側に非があるかのような内容が目に付く。先ほどの記事でも、いま日本各地で「闇土葬」が発生していることに触れ、こう書いてある。

「このまま土葬場所についての議論を放置していては、闇土葬がますます横行するのは火を見るよりも明らかだ」

放置されているか? 土葬墓地について、今ほど日本で活発に議論されたことはなかったと思うのだけど。
闇土葬は警察が対応するべき問題だ。それが増えるからといって、日本に土葬墓地をつくるための「圧力」にしようとすると、反発を招いてうまくいかなくなる。

『アメーバタイムス』のニュース・タイトルも、日本人をあおっているとしか思えない(2022/2/10)。

教徒23万人に対し、土葬のできる墓所は全国に9カ所のみ…日本はイスラム教徒の願いを叶えられる国になれるのか

外国人の大学教授が「人間というのは国籍や出身に関係なく、幸せに生きることを求める権利があるはず」と述べ、さまざま国の人たちとの共生を強調した。そして、「外国から来た人たちの生き方とか文化とかこだわりに対する無理解、無関心、情報不足があって、不要な不安、恐怖心を抱いてしまっている」と、日本人の態度を問題視する。

この手の多文化共生をテーマにした記事を見ると、識者が理想論を掲げて、日本人の「無理解」を批判し、反省を促して、最終的には日本人に外国人の主張を受け入れさせようとするパターンが多いとよく感じる。これでは逆効果だ。

 

個人的には外国人の知り合いが多く、彼らとの交流を楽しんでいるので、多文化共生はウェルカム。しかし、それを上から押し付けられると、「多文化強制」と感じて反発する人の気持ちも理解できる。「日本はイスラム教徒の願いを叶えられる国になれるのか」と問う人たちは、そうした感情への配慮に欠けているのでは?
イスラム教徒のための土葬墓地の建設も、日本人の不安や拒否感に寄り添う姿勢を大切にしないと、きっとまた失敗に終わる。

現状では、イスラム教徒の人たちには来日する前に、日本で土葬がとても難しいことを理解してもらう必要がある。母親に泣かれても、そんな事情を受け入れて日本に来る外国人もいる。

 

 

日本 「目次」

【死の花】日本での彼岸花の意味や歴史 & 外国人の感想

日本人と“不吉の迷信”:120年に一度の竹の花・丙午に生まれた女

【日本の迷信】写真を撮ると“魂が抜け出る(早死にする)”理由

【日本文化】インド・アフリカ人が感激した禅の円相・茶道

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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