【日中の反逆者】夢破れ、悲惨な最期を迎えた林清と由井正雪

2025年10月9日

現代の日本やアメリカなどでは、選挙でより多くの民意を得ることで、政権を打倒することができる。しかし、そんな民主主義のルールが存在しなかった時代には、武力で王や皇帝、政権を滅ぼすことがあった。

これは超ハイリスク・ハイリターンで、成功すれば革命になるが、失敗すればただの反乱に終わる。歴史的に、国家を転覆しようとすることは最大級の罪になり、首謀者はその国でもっとも残酷な方法で処刑されるのがお約束。
これから、日本と中国の歴史で有名な反逆者を紹介しよう。

由井正雪

江戸幕府が誕生した１６０３年ごろ、由井正雪（ゆいしょうせつ）は今の静岡県で生まれた。桜エビで有名な静岡市の由比には、彼が生まれたとされる「正雪紺屋」がある。
正雪は優れた軍学者で、将軍家からもお呼びがかかるほどだったが、それを拒否し、自分で塾を開いて多くの塾生を育てていた。

当時の将軍は徳川家光で、日本は戦国時代が終わり平和な時代を迎えていた。戦いが無くなって武士はあまり必要とされなくなり、時代の流れに従って、武士から百姓や町人に「ジョブチェンジ」する者もいれば、武士であることを諦められない浪人もいた。
江戸時代の初期、幕府は権威を見せつけるために、大名の領地を没収することがあり、これが多くの浪人を生んだ。
彼らの中には、自分たちを社会の「いらない子」にした幕府に恨みをもつ者もいて、幕府への仕官を断った正雪に共感し、多くの浪人が彼の塾に集まるようになった。これが「破滅フラグ」になる。

ある日、家光が病死し、１１歳の息子が次の将軍になることが決まった。まだ幼く、知識も経験もない子どもが将軍になると知り、正雪は「時はきた」と判断し、幕府を打倒し浪人を救済するために立ち上がった。
彼の計画はこうだ。

火薬庫を爆発させて江戸城を襲撃し、急いでやって来るであろう老中や旗本など幕府の要人を殺害し、家綱を人質に取る。それと同時に、京都にいた正雪が天皇を誘拐し、最終的には自分たちが政治の権利を握る――。

しかし１６５１年、この計画が幕府側にバレて正雪は自害し、慶安の変（または由井正雪の乱）は未遂に終わった。幕府を滅ぼそうとした罪はとても重い。正雪の父や妻、弟、伯父も処刑され、母親は磔（はりつけ）にされた。

磔は、死刑囚を柱に体を縛りつけたあと、左右にいる処刑人が槍（やり）を脇腹から肩にかけて突き刺し、これを何度もおこなって死にいたらしめる。槍を刺して「ひねり」を加えて抜くため、傷口が開いて苦痛も大きくなる。斬首とは異なり、すぐには死ねないので、罪人は想像を絶する苦痛を感じながら命を奪われることになる。
江戸時代の処刑には、下手人、死罪、獄門、磔、火あぶり、鋸引（のこぎりびき）の６種類があったが、鋸引は実際にはおこなわれず、磔にされて殺されたため、実質的にはこれがもっとも残酷な処刑法だったと言える。

由井正雪の母親に磔が適用されたのは、この反逆者を生んだことを「重罪」と見なされたためでは？

江戸時代の磔
左右にいる役人が「アリャアリャ！」と声を出して槍を突き刺した。

林青（りんせい）

中国史から紹介する反逆者は、清王朝の時代、１８１３年に「天理教徒の乱」（癸酉の変）を起こした林青。

※この天理教は白蓮教（びゃくれんきょう）にルーツを持つ中国の宗教結社で、日本（奈良）の天理教とは１ミリも関係ない。

フランスの小説『異邦人』では、主人公のムルソーが裁判で「なぜ人殺しをしたのか？」と聞かれ、こう答えた。

「太陽がまぶしかったから」

林青が謀反を起こしたきっかけも「空」にあった。１８１１年、明るい彗星が現れると、北京では「王朝が繁栄する予兆だ」と歓喜にわき、林青らは、これから清を打倒する自分たちを天が祝福してくれたと真逆の解釈をした。

林青らの計画はこうだ。

皇帝（嘉慶帝）が外出し北京から離れる日があるので、その隙（すき）に紫禁城を襲撃して占拠し、嘉慶帝が戻ってきたところで襲って殺害する――。

林青は仲間とともに商人をよそおって北京に入り、約８０人が紫禁城に侵入することに成功。城内で反乱軍と政府軍との戦闘がはじまると、皇子（後の道光帝）も銃を持って戦い、１名を殺害した。皇子にここまでさせたというのは、この奇襲攻撃はかなり成功に近かったということだろう。しかし、すぐに鎮圧され、林青らのチャレンジは失敗に終わった。

皇帝を殺し、王朝を滅ぼそうとした逆賊には、中国でもっとも残忍な処刑法とされる「凌遅（りょうち）刑」が適用される。これはフランスのギロチンとは逆で、処刑人が刃物で死刑囚の体を切り刻み、激しい苦痛をできるだけ長く味わわせながら命を奪うというものだ。
凌遅刑では、男女で順番がちがった。
女性の場合は、まず乳首を切り取り、その後乳房を切り落とし、お尻や腿（もも）、そして生殖器を切り取る。男性の場合は胸筋と生殖器を切り、その後、腿、両腕、腹筋、お尻の順に切り、最後に耳、鼻、目、唇を切り落としたという。