日本のアニメは国境も宗教も超えて、いま世界中の若者を虜にしている。それは、インドネシア、イタリア、ネパール、フランス、マダガスカルなどで反政府デモのアイコンとして、『ワンピース』の海賊旗が使われたことからも分かる。
ワンピースの旗が世界で”抵抗のシンボル”になった理由・外国人の反応
しかし、日本のアニメで幸せになる外国人もいれば、その「副作用」で悩む日本人もいる。
昨年の12月のくっそ寒い日、20代のベトナム人女性が日本へ旅行にやってきた。彼女の「絶対行ってやるリスト」に入っていたのが鎌倉。その理由について彼女はこう話す。
「Ghé thăm địa điểm nổi tiếng trong bộ anime Slam Dunk tui yêu (mặc dù mới đọc truyện chứ chưa xem phim 🫢).
機械翻訳:私の大好きなアニメ「スラムダンク」の有名な場所を訪ねてみた(漫画は読んだことがあるけど、映画はまだ見ていない🫢)。
彼女は『スラムダンク』が大好きで、部屋には『スラダン』のポスターが何枚も貼ってあり、花道の名セリフも覚えているという。
日本を好きな外国人を通して、ボクが日本について知ることがたまにある。
今回もこのベトナム人の投稿で、日本と台湾の合作映画『青春18×2 君へと続く道』で鎌倉がロケ地として使われていたことを初めて知った。それもわりと印象的なシーンで美しく登場するらしい。
その映画の登場人物が旅した場所が鎌倉だったから、彼女にとっては二重の意味での「聖地巡礼」になる。でも、実際に訪れてみると達成感はあったものの、期待値が高すぎたためか、「映画では詩的に見えるけど…」と物足りなそうな感想を書いていた。
また、『スラダン』のオープニングシーンに登場し、たくさんの巡礼者が訪れる「鎌倉高校前1号踏切」では、彼女はこんなことを思いながら電車を待っていた。
「日本の冬はすごく寒い。ずっと待っていても電車は来ないで、人ばかりがやって来る。いつまでも増え続けるの? まったく終わらない」
それでも映画とマンガで「絶対行きたい」と思っていた聖地を、晴れた日に訪れることができて彼女は満たされた。

スラダン大好きベトナム女子が母国から持ってきたキーホルダー。踏切を背景にして写真を撮りたかったらしい。

これは『スラダン』にあこがれたトルコ人が鎌倉で撮った写真。やっぱり、踏切には想像以上の観光客がいて、危険を感じるレベルだったらしい。
先ほどのベトナム人はルールを守って観光したと信じているけれど、鎌倉では多くの住民が「オーバーツーリズム(観光公害)」に迷惑している。とくに写真の踏切には人が集中し、写真を撮る観光客のせいで信号が青になっても車が進めないことがある。
ほかにもこんな迷惑行為があるという。
自宅への不法侵入、ゴミの放置、路上での排泄行為、違法な白タクドライバーによる無断駐車などなど。
今年8月には、「ここは駐車してはダメですよ」と注意した中学生に外国人ドライバーが逆ギレして、少年に車をぶつけて走り去る事件が起きた。
警察もパトロールを強化しているが、見つけても「注意」するのが限界らしく、観光公害の問題はまったく解決していない。
経験上、知ってて悪いことをしている外国人に注意をしても、意味も効果も期待できない。しかし、たぶん警察は法的にそれ以上、厳しい対応をとることはできない。
鎌倉市もオーバーツーリズムには悩まされている。住民にとっては外国人よりも、役所のほうが文句を言いやすいから、相当苦情の電話がきていたと思われる。
市は英語や中国語、韓国語で注意を訴える看板を置いたり、警備員を配備したりしているが目立った効果はない。
それで先日、鎌倉市は新しい方法としてクラウドファンディングをすると発表。広い範囲で人びとからお金を出してもらい、それを対策費につぎ込むというアイデアだ。
市は目標額を350万円に設定してクラファンを開始したが、今のところは残念というか、無惨な結果に終わっている。6日が過ぎてもたった1万円しか集まっていないのだ。
低調な理由としては、一般会計830億円規模の自治体が350万をクラファンで集めようとすることや、返礼品がないことに疑問を感じた人が多かったと思われる。
(お返しがなかったら、「寄付」になるでは?)
ネットの書き込みを見ても、批判的なコメントがほとんどだ。
・なぜそこまで日本人に負担を求めるのか
・市役所職員や議員もカネ出してないのがバレて面白いw
・もしかして反外国人感情を煽るためにわざとやったのかな
だとしたらなかなか策士だな
・それよりシンガポール並みの罰則を条例で定めりゃいいだろ
・インバウンド税作って対策費にあてりゃええ
やっぱり、迷惑をかけられた側がお金を出すという発想は受け入れられない。
順番としては、
1,外国人を含めた観光客
2,観光で儲けてる店や業者
3,観光で税収が増えた鎌倉市
の順で対策費を出すべきだろう。
鎌倉市としてはそれが難しいから、いちばん手っ取り早そうなクラファンを選んだのだろうが、冷たい視線を浴びてしまった。国や市がインバウンドを奨励して、そのツケを市民に回すようなことをしてはいけない。笛を吹いても誰も踊りださない。
スラダンの「聖地」で外国人が喜ぶいっぽうで、鎌倉の住民や役所が観光公害に悩まされる日々に終わりは見えない。

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