【悲報】途上国に近づく日本 美味しい寿司は外国人が食べ…

15年ほど前、日本に住むフィリピン人やアメリカ人とパーティーをしていたとき、ひとりのフィリピン人女性が何気なく言ったことばが、今も忘れられない。

「日本で食べるフィリピンバナナは本当に美味しい! フィリピンでは、質の高いバナナは外貨を稼ぐために海外へ輸出されるから、わたしたち一般国民は『残り物』を食べてるの。日本に来て、初めてフィリピンバナナの美味しさを知った!」

彼女は、日本に来てから、どう考えてもフィリピンバナナが本国よりおいしく感じたから、友人に話したところ、こうした仕組みを教えてもらったという。
本人はまったく気にする様子もなく、「仕方ないね。だってフィリピンは貧乏で、日本は先進国だから」と明るく笑っていた。だが、日本人のボクとしては、少し複雑な気持ちになった。
正直に言えば、「日本は金持ちだから、良いものが集まる」という特権意識を、無意識のうちにもっていたことに、そのフィリピン人のことばで気づかされたのだと思う。

 

外貨を稼ぐために、自国の最高品質のものを海外へ輸出し、国民は二等品や三等品に親しむ。この構造は、「発展途上国あるある」と言っていいほど、世界中に存在する。
例えば、コーヒーの発祥地といわれ、今でも世界有数の生産国であるエチオピアがある。
エチオピア産のコーヒー豆は、品質によって「G(グレード)1」から「G9」までに分けられている。海外へ輸出されるのはG5までで、一般のエチオピア国民が飲めるのは、それより下の品質のものだ。
最高品質の「G1」や高品質の「G2」は、日本や欧米などへ送られるから、現地の人は「G8」や「G9」などの安価なコーヒーを飲んでいるのだろう。フィリピン人と同じように、自国のコーヒーの本当の美味しさを知らない人もいるだろう。

 

 

自国の名産品を、自国民が最も良い状態で楽しめない。これは、経済発展を優先せざるを得ない途上国が抱える「ゆがみ」で、日本には遠い世界の話だ。

――と、そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。

新年早々、NHKのクローズアップ現代『SUSHI“新時代”〜勃発!世界の寿司ネタ争奪戦〜』(2026年1月5日放送)を見て、日本の現在地を知り、衝撃をうけた。

世界的な寿司ブームの影響で、日本近海でとれた質の高いマグロやウニが海外へ輸出され、日本人が以前のように、おいしい寿司を食べることが、だんだん難しくなっている。
例えばタイでは、日本を旅行して「本場の味」を知った人たちが、日本と同じクオリティーの寿司を求めるようになった。その結果、寿司店の数は昇龍拳のように増えている。1人3〜4万円の「おまかせ」コースを注文する人も珍しくない。
豊洲市場で仕入れた魚は、24時間ほどでバンコクの寿司店やスーパーに並ぶという。ネタの質は、日本の寿司とほとんど変わらない。

日本の海でとれる魚は、もともと質が高い。1980年代後半から漁獲量は減っているのに、海外でのすし人気は逆に高まっている。
さらに、日本経済の停滞や円安の影響で、質の高い寿司ネタはドバイや香港、台湾など海外へ輸出されることが増えてきた。

番組では、ド素人のボクが「5万円くらいかな?」と思った最高級のウニが、外国人に50万円で買われていた。
市場で魚を仕入れるのは日本人で、目利きは確かだから、品質は折り紙付きだ。
漁師や仲卸業者も、昔からの地元客を大事にしたい気持ちはある。それでも、経営や生活を考えると、海外へ売らざるを得ない店が多い。
寿司職人や仕入れ業者にとって、時代と常識は大きく変わった。
築地市場では普通に買えた質の高いネタが、豊洲市場では少なくなり、値段も上がって手が出ないことが増えているという。

 

日本経済が回復し、日本人の購買力が上がれば状況も変わるかもしれないが、そんな明るい未来は、今のところ見えない。
つまり、今の日本は、フィリピンやエチオピアと同じだ。日本人が海外の寿司店で、本当のうまさに気づく日も近い。
……というのは言い過ぎだとして、美味しい寿司を食べる外国人が増えるいっぽうで、日本国内ではその機会が減っているのは事実だ。

このまま日本が「貧しく」なっていけば、自国の質の高いものを海外へ出し、日本人はその残り物を食べる。そんな残酷な光景を、いつか目にするかもしれない。
サッカーや野球の国際大会で負けるのはまだいいが、「世界の寿司ネタ争奪戦」での敗北は痛すぎる。
もっとも、専門家によれば、今後は高級寿司店と安い回転寿司店の二極化が進むらしい。だから、その中間にある「街の寿司店」を使わない人には、大きな影響は出ないと思われる。

 

20年ほど前、海外の空港の寿司店で、外国人が箸で寿司を食べているのを見て、ひそかに優越感をおぼえたことがある。まさか、海外のSUSHI人気が、こんな憂鬱な未来を連れてくるとは、当時はまったく想像していなかった。
未来の日本人が「わたしたち一般国民は『残り物』を食べてるの」と、ニコニコしながら言う日が来ないことを願う。

 

 

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

日本のすし店で働くインド人の話 良い面と差別的な体験

日本通の米国人の話 海外から見たすし・日本の技術力の高さ

外国人の質問「すしを食べるのは箸か素手か?」の答え

「日本の本物のすし」へのこだわりが、タイで招いた“悲劇”

黒人が握る寿司:多様性・寛容を試されるこれからの日本人

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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