タイとミャンマーの関係|宿命のライバルから、「戦略的な友人」へ

「最大のライバル」と呼べる敵と出会って、戦うことでお互いを理解し、自分を高めていく。

少年マンガでよくある熱い展開だ。

その代表的な作品が『北斗の拳』で、主人公のケンシロウが「強敵」と書いて「とも」と呼び、ファンを感動させた。

しかし、現実の世界はそんなに単純ではない。
特に、過去に大きな戦争があった隣国どうしの関係は、とても複雑だ。

今回は、タイとミャンマーの関係について書いていこう。

目次

1. 経済でつながる「共生関係」

ニュースを見ていると、昔からタイとミャンマー(ビルマ)の関係に注目した報道がよくある。
東南アジアの政治や社会において、この2カ国の関係は重要だ。

※ミャンマーは「ビルマ」と呼ばれることがある。
ここでは現在の国をミャンマー、過去の国をビルマと呼ぶことにする。

かつては領土をめぐって何度も戦ったライバルで、タイにとっては「最悪」の事態も起きたが、今の両国は「切っても切れない共生関係」にある。

タイにとって、ミャンマーは主に以下の2つのポイントで欠かせないパートナーだ。

労働力: 数百万人ものミャンマー人がタイの経済を支えている。

エネルギー: タイの電気供給は、ミャンマー産の天然ガスに頼っている。

最近、中東情勢の緊張の影響で、原油価格が上昇し、タイではガソリン代が急騰するなど燃料不足の不安が深刻化している。

それを受けてタイ政府は燃料の輸出を禁止したが、ミャンマーだけは「例外」として輸出を認めた。

タイにとって、ミャンマーがとても重要な国であることがわかる。

ミャンマーにとっても、タイから得られる経済的なメリットはとても大きい。
だから、お互いに関係を悪化させるわけにはいかないのだ。

2. クーデターと難民問題、複雑な政治事情

ミャンマーでは2021年に軍によるクーデターが起き、今も軍事政権が続いている。

これに対してタイは民主化を支持し、暴力の停止を求めているが、欧米のようにミャンマーを強く非難することはない。
なぜなら、先ほど指摘したように、経済的なつながりが強すぎるからだ。

もしミャンマー国内が混乱して不安定になると、難民が一気にタイへ流れ込み、国境がパニックになってしまう可能性がある。

それに、タイ自体も過去に何度も軍のクーデターが起きているから、ミャンマーを大声で批判することはできないのだろう。

つまり、今のタイとミャンマーは「相思相愛」というわけではないけれど、共生関係にあり、利害で結びついたビジネスパートナーでもある。

 

廃墟となったアユタヤ

3. 【歴史】アユタヤ滅亡という消えないトラウマ

15年ほど前、タイの首都バンコクを旅行中、タイ人の日本語ガイドと歴史博物館に行ったとき、下の「ゲーム」を見て正直引いてしまった。

 

 

これは、攻めてくるビルマ軍の兵士を大砲で撃退してタイを守るゲームらしい。

たとえ「バーチャル」であっても、隣国の人間に弾丸をぶつけて「倒す」という内容には1ミリも共感できなかった。
しかも敵のビルマ兵は民族衣装を身につけていて、妙なリアル感をおぼえた記憶がある。

しかし、案内してくれたタイ人のガイドの意見は違った。

「ビルマ軍がタイを攻め滅ぼしたのは歴史の事実です。二度とそんな悲劇が起こらないように、ゲームを通して国を守る気持ちを育てるのは大切なことですよ。
それにこれは100年以上も前のことで、現在のタイ人はミャンマーを嫌いなわけではありません」

そうは言っても、タイ人の心の奥底にはまだ恨みが残っているんじゃないか……そんな印象を受けた。

 

タイは歴史上、領土を拡大しようとするビルマから、何度も激しい攻撃を受けてきた。

アユタヤ王朝(タイ)の主権・領土、国民の生命や財産は、ビルマの動きに大きく左右される時代が続いていた。
そしてついに、悪夢の1767年がやってくる。

この年の4月、アユタヤ王朝はビルマ軍の侵攻を受け、防衛戦を突破されて滅亡した。
ビルマ軍は首都になだれ込み、街を徹底的に破壊し、寺院の仏像から金箔をはぎ取り、首を切断したという。

タイの歴史教科書には、この出来事は「タイにとって重要かつ最悪の事件であった」と記述されている。

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この凄惨な記憶は、タイ人の心に「ビルマ=いつかまた攻めてくる恐ろしい敵」という強烈なイメージを植え付け、両国の国民感情を冷え込ませる原因にもなった。

 

※ミャンマーで出会った日本語ガイドは、「仏教に熱心なミャンマー人がそんな野蛮なことをするわけがない」とこの説を否定した。
彼女は、後にタイ人が仏像の首を切り取って、外国人に売ったと主張したが、実際のところはわからない。
こうした意見の違いも、両国が対立する要因の一つになっている。

4. カンボジアとの紛争がタイに与えた影響

時代とともに国際環境や国民の認識も変わり、最近のタイとミャンマーの関係もこの「伝統的な対立」から抜け出しつつある。

タイにとって周辺国との関係はすべて連動している。
特に2025年に起きたカンボジアの武力衝突は、ミャンマーとの関係を見直すきっかけとなった。

この時は戦闘機まで出動するレベルの「戦争状態」になり、カンボジアに対するタイの国民感情は一気に悪化した。
もちろん、それはカンボジア側も同じだ。

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東側の国境が緊迫したことで、タイの戦略は変わり、西側(ミャンマー)との関係をこれまで以上に大事にするしかなくなった。

軍事クーデターで世界から孤立しがちなミャンマーにとっても、隣のタイと友好的な関係を保つことは重要だ。

かつての宿敵は、今や切り離すことのできないパートナーとなっている。

5. タイの若者がミャンマーに好印象を持つ理由

政府どうしが駆け引きをする一方で、若い世代の意識は変わり始めている。

最近、20代のタイ人から、いまタイでアユタヤ王朝を舞台にした漫画「อโยธยาเอยาวดี」(アヨータヤーエーヤーワディー)」が人気だという話を聞いた。

これは、タイとビルマが国どうしでは争っていたが、両国の王子は愛し合っていたという「BL(ボーイズラブ)」要素のあるストーリーらしい。

※知人のタイ人がそんな話をしていたけれど、この漫画について調べてみても詳しい情報は見つからなかった。だから、正確なところはわからない。

とにかくタイの若い世代にはこの漫画のファンが多く、ミャンマーに対する「恨み」や「憎悪」は完全に過去のものになっているという。

まとめ:タイとミャンマーの関係は「戦略的な友人」へ

歴史を振り返れば、ビルマとアユタヤは「宿命のライバル」だった。
しかし今は、経済や安全保障の面で、お互いにいなくてはならないパートナーになっている。

タイにとってはカンボジアとの紛争を背景に、ミャンマーはより重要な存在となった。
今のタイとミャンマーの関係は「地政学的な運命共同体」と言っていいだろう。

しかし、「利害が一致している」という点で戦略的な友人となっているため、東南アジアのパワーバランスが変われば、今の両国関係も変化するだろう。

こうした関係は東南アジアに限った話ではない。
日本と韓国を見ればわかるように、隣国とのつき合いは複雑でむずかしいのだ。

 

 

東南アジア 「目次」

【君の名は】日本人よ、これが70年代のカンボジア大虐殺だ

日本とタイの関係の歴史 アユタヤの日本人町と山田長政

【アジアの例外】日本・タイが植民地にならなかった理由

【決定版】タイ人はクルンテープ、外国人はバンコクと呼ぶ理由

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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