知人のトルコ人は日本が好きで、静岡の大学を卒業した後、そのまま日本の会社に就職して今はそこで働いている。
『アルスラーン戦記』に出てくる王子と違って、こっちの「アルスラーン」はサラリーマンだ。
彼が日本に住んでいて、恋しく思うトルコ料理についてはこの記事で書いた。

今回は、そのアルスラーンから聞いた「伊豆の魅力」と「イスラモフォビア(イスラム嫌悪)」についての話をシェアしようと思う。

トルコ人と和歌山
ーー前に、アルスラーンはことしのゴールデンウィークに、和歌山を旅行して串本町へ行く予定だって言ってたじゃん?
アルスラーン:あそこは日本に住むトルコ人にとって、とても大切なところだからね。
※1890年に、和歌山の沖合でエルトゥールル号が遭難する。このとき、村人たちが懸命の救命活動をしたことで、結果的に日本とトルコの絆が深まった。

ーーで、初和歌山はどうだった?
ア:残念なことに、手ごろなホテルが空いてなくて行けなかったんだ。どうやら、僕は和歌山に嫌われたみたいだね。
ーー日本の文化でいうなら、それは「日ごろのおこないの結果」で、イスラム教的に言うなら「アッラーの意思」になるのかな。
伊豆の魅力と神道の自然観
ア:まさに神の意思だよ。
だって、代わりに伊豆を旅行することになって、それが大正解だったからね。
ーー伊豆か。どこが良かったんだ?
ア:友だちに誘われて行ったから、伊豆についてほとんど知らなかったんだ。
でも、行ってみたら豊かな自然と温泉があったし、知らなかった日本の歴史に触れることができて、とても充実した旅になったよ。
ーーそれは現代的な見方だな。
昔あそこは流刑地で、奈良や京都で罪を犯した貴族が送られた場所だったんだぜ。
ア:本当かい? あんな美しいところなのに。
ーーその美しさが、昔の人には過酷で住むには厳しい環境だった。
アルスラーンは伊豆の自然で、どんなところが良かったんだよ。
ア:海と山の距離だよ。目の前には広大な海が広がっていて、後ろを向いたら山がある。
まるで、海中から陸地が盛り上がってできたみたいじゃないか。
ーー「伊豆」という地名は、その独特な地形に由来すると言われているからな。
海から突き出たように見えるから、「出(い)づ」と呼ばれるようになった。
まぁ、伊豆の由来にはほかにも説はあるんだけど。
ア:そう思った気持ち、トルコ人の僕にもわかるね。
トルコやヨーロッパでいろいろな海を見てきたけど、あんな自然は初めてだ。
青く広い海と緑の山はとても印象的だったよ。
ーーたしかにあの距離感は珍しいかもな。
ア:ほかにもポイントがある。
伊豆を旅行していて、山や海の神を祀る神社をいくつも見て、僕は「この国では自然と宗教が深く結びついているな」ってつくづく感じたんだ。
そういう神道の考え方が伊豆の自然を守ってきたんだよ。

日本の「イスラム嫌悪」
ーーいま宗教の話が出たところで、イスラム教徒のアルスラーンに聞きたいことがあるんだ。
最近、日本では外国人が増加傾向にあって、それにともなってイスラム教徒も増えている。
※つい先日も、毎日新聞がそれについての記事を載せた。
イスラム教の土葬墓地やモスク(礼拝所)の建設に対して、嫌悪や排斥感情に基づくとみられる反対運動が起こり、トラブルになっているという。
毎日新聞の記事(2026/6/19)
土葬墓地巡るトラブル 日本人ムスリムが訴える認め合う社会
ア:そういう「イスラムフォビア(イスラム恐怖症)」の問題は、いま世界中の先進国で発生しているから、日本国内だけの現象ってわけじゃない。
でもね、実は僕はそのことに気づいていなかったんだ。
ーーちょっと何言ってんのか分からない。
ア:5年近く日本に住んでいて、日本人の敵意や憎悪を感じた瞬間は一度もなかったんだよ。
君と同じように僕を心配して、その話をしてくれた日本人がいてね。
そのとき初めて、日本国内でイスラム教に対する嫌悪感が高まっていることを知った。
ーー当事者として、今までその実感がまったくなかったのか?
ア:ああ、一度もないね。周りの日本人はみんな優しいんだよ。
俺が豚肉とアルコールがダメだと知って、食べ物の原材料をチェックしてくれたり、親切に配慮したりしてくれたからね。

イスラム教のモスク(礼拝所)
神社で大声でアザーンを唱える理由は?
ーーそれは良かった。でも、一部で摩擦やトラブルが起きているのは確かなんだ。
どうしてそんなふうに拒否感が高まるんだと思う?
ア:日本人の知人とその話をしていたとき、あるイスラム教徒が日本の神社で大声でアザーンを唱えている動画を見たんだ。
驚いたね、彼の行動がまったく理解できないよ。
ーーそれ、SNSでかなり拡散されてたな。
神社の境内で、「アッラーアクバル(アッラーは偉大なり)」と大声で言っていた。
アルスラーンが驚いたってことは、同じイスラム教徒でも彼の動機や目的がわからないのか。
ア:だからこそ、だよ。
イスラム教にあんな習慣はなくて、逆に、異なる文化を尊重することが重要とされているからね。
あれは個人的な行動だから、正確な動機は彼に聞くしかない。
ーー神の名前を出していたけど、あれはイスラム教に特徴的な行動じゃなかったのか。
ア:違うよ。ああいう不適切な行動が、イスラム教に対する偏見を生み出す原因になっている。
でも、あえて言うなら、「響き」かな。
ーーどういうことなんだ?
ア:イスラム教ではね、クルアーン(コーラン)の言葉を唱える「詠唱」がとても大事なんだ。
モスクの屋根はよくドーム状になっているだろ?
ーー知ってる、玉ねぎみたいな形をしてるよな。
ア:聞かなかったことにしてあげるよ。
あれは、聖職者が唱えるクルアーンの響きを反響させて、荘厳な雰囲気を作り出すためでもあるんだ。
動画の中の神社は洞窟にあっただろ?
そこなら、音が反響しやすいから、彼はそれを楽しんでいたかもしれない。
ーーイスラム教徒なら「ヤッホー」と叫ぶよりも、「アッラー・アクバル」のほうがいいんだろうな。
ア:あくまで僕の想像だよ。
イスラムフォビアが広がる原因は?
ーー理由はよく分からないけど、あれを見た多くの人が「日本文化への冒とく」と感じて、不快に感じたことは間違いない。
ア:当然だね、あまりに配慮に欠けた、失礼でごう慢な態度だから。
ーーさっきのニュースで、土葬墓地をめぐってトラブルが発生しているって書いてあっただろ?
許可を得ないで、墓地に勝手に遺体を埋める「闇土葬」をするイスラム教徒がいたんだよ。
ア:その話も聞いた。本当に申し訳なく感じるよ。
日本の文化や法律を無視する行為が重なったら、日本人が拒否感を感じるのも仕方ないさ。「認め合う社会」が大切なのに、それを否定するイスラム教徒もいる。
ーー「嫌悪感」が広がることにはいろんな原因がある。
SNSで、イスラム教への憎悪をあおる投稿をする日本人もいるしな。
神道とイスラム教の自然観の違い
ア:それと、日本人の独特な自然観も関係しているんじゃないかな。
神道では山や海の、木や石などの自然に「神」が宿るという考え方があって、日本人はそう感じるところに神社を建ててきた。
ーーイスラム教じゃ、ありえないことだよな。
アッラー以外の何かを「神」として崇拝することは厳しく禁止されている。
ア:日本人は自然に「神聖さ」を感じて崇(あが)めるけれど、イスラム教徒はそうじゃない。
そういう価値観の違いが、きっとあの無礼な行動につながったと思うね。

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