知人のトルコ人男性は留学生として静岡の大学で学び、卒業した後は日本に残って、今はサラリーマン生活を送っている。
ここでは彼の名前を「アルスラーン」とする。
これは「獅子」という意味で勇気や強さをあらわし、トルコの歴史ではアルスラーンという名を持つ皇帝が多い。
今回は彼の話をとおして、トルコの食文化について書いていこう。
恋しく思うもの|コーヒー
ーーアルスラーンは、日本に住んでもう3年以上になるんだっけ。
今、トルコのどんなものが恋しくなるんだ?
「家族や友だち」という答えは反則な。
アルスラーン:そうだな、それを封じられたら、俺がトルコについて恋しく思うのはコーヒーだね。
トルコのコーヒーを知ってるかい?
ーー知ってる、トルコに行って飲んだことがあるから。
すっごく濃くて、粉っぽくて驚いた。
ア:それがトルココーヒーだよ。
水とコーヒー豆をグツグツと煮た後に、ペーパーフィルターで濾(こ)さずにそのままカップに入れるから「粉感」が強い。
それに比べると、日本のコーヒーは基本的に薄いんだよね。
ーー日本人とトルコ人の顔もそうだよな。
ア:さらっと問題発言をはさむな。
日本のコーヒーも、それはそれで良いんだけどさ、トルコにいたときは毎日のように飲んでいたから、たまにあの苦みと深い味わいが恋しくなるね。
日本独自の「アメリカンコーヒー」
ーー日本には、普通のブレンドコーヒーよりも薄い『アメリカンコーヒー』ってのがあるんだ。
ア:アメリカーノじゃなくて?
ーーカーノじゃなくてカン。
アメリカにもない日本独自のコーヒーだから、知り合いのアメリカ人も「なにこれ?」って驚いていた。
カフェにもファミレスにもあるから、今度飲んでみろよ。
ア:なるほど、コーヒーではトルコの反対がアメリカなんだ。面白いね〜。
ーーホントに好き勝手なことをしてるよな。


AIが作成したトルココーヒーのイメージ画像。
「ジェズヴェ」と呼ばれるコーヒー用の鍋で作って、カップにそそぐ。
トルココーヒーの文化と伝統は、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。
キョフテ|トルコ風ハンバーグ
ーー食べ物はどうなんだ?
日本にいると、めっちゃ食べたくなるトルコの食べ物はあるのか?
ア:肉料理もたまらなく恋しいねえ。
僕はね、「キョフテ」って肉料理が大好きなんだ。
ーーキョフテか…、どこかで聞いた気がするな。
ネットで調べたら、「キョフテ」ってミートボールとかいろんな形があって、日本ではトルコ風ハンバーグと呼ばれることがあるんだって。
ア:そうそう、そんな感じ。
トルコ国内では、地域ごとにキョフテの作り方や味が違うから、よく話題になるんだ。
ーー日本で言うなら、「ご当地ラーメン」みたいなものか。
ア:そうそう。
どこの国の人でも地域には愛着があって、譲れないものがあるってことだね。
ーー「ご当地グルメ」を超えて、トルコ料理のキョフテがスウェーデンに伝わって、ミートボールになったらしいぜ。
ア:えっ、それは本当かい?

それも羊肉のキョフテを食べたいね〜。
トルコ料理では羊の肉をよく使うけど、日本料理では豚肉や牛肉、鶏肉が多くて、羊肉は仲間はずれにされているだろ?
ラム(仔羊)とマトン(成羊)の違いがわからない人もいる。
ーーじゃあ、ハマチ(若魚)とブリ(成魚)の違いが分かるトルコ人は何人いるんだよ。
まぁそれはいいとして、確かに羊肉って日本人にはなじみがないからな。
「ラム」って聞いたら、日本人の9割は「だっちゃ」のほうを思い浮かべると思うぜ。
ア:いや、僕にはそっちのほうがわからないけどね。
羊の肉はおいしいのに、日本人が羊肉を食べないのは本当にもったいないと僕は思うね。
ーーそもそも日本人は伝統的に「肉食民族」じゃなかったから。
今みたいに肉を食べ始めたのは明治時代になってからで、まだ歴史が浅いからな。
羊の豆知識
『日本書紀』の記録によると、599年に朝鮮半島にあった百済から推古天皇に対して、朝貢物として2頭の羊が献上されたという。
しかし、日本の高温多湿な気候に合わなかったらしく、羊は日本に定着しなかった。
江戸時代にも羊を輸入して、中国人に飼育をまかせてみたが、うまくいかなかった。
日本で羊の飼育が本格化するのは、明治時代になってから。
それも、寒冷地で戦うことを想定し、軍服で使う羊毛(ウール)を得るためで、食用として羊を育てたわけではなかった(ヒツジ)。

ピデとキョフテ(のイメージ)
イチリ・ピデ|トルコ風ピザ
ーートルコってヨーロッパとアジアの境目にあって、両方の文化や影響が入り混じっているだろ?
食文化ではパンとお米のどっちが主流なんだ?
ア:僕の感覚だと、パンのほうが多いね。
もちろん、お米も食べるよ。
知ってるかい? 日本でも人気の「ピラフ」って、実はトルコ語が由来になっているんだぜ。
※ピラフをさらにさかのぼると、インドのヒンディー語「pulāv」(米と肉の料理)が語源といわれる(Pilaf)。
ーー日本に住む欧米人に聞くと、「母国のパンが恋しくなる」ってよく言うけど、アルスラーンもそうなのか?
ア:そうだね〜。僕は「ピデ」っていうトルコのパンが懐かしいね。
これは平たいパンで、上にいろいろな具材をのせることができて、これが本当においしいんだよ。
ーービデなら知ってるけど、ピデは初耳だな。
ア:おい。
ーーネット情報によると、ピデに具をのせた「イチリ・ピデ」は、日本では「トルコ風ピザ」って紹介されることがあるらしい。
ア:たしかにそんな感じだよ。
ーー話をまとめると、アルスラーンとしては、今はトルココーヒーとキョフテとピデがたまらなく恋しいんだな。
ア:そうだね。
今の環境じゃ手に入らないから、それは帰国した後のお楽しみにしているのさ。

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