韓国で元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんといえば慰安婦問題を象徴する人物で、社会で絶大な影響力をもっているのは知ってた。
2017年に米トランプ大統領が国賓として韓国を訪れた際、ムン・ジェイン大統領が晩餐会にイさんを招いて大統領に引き合わせたこともある。
これはもちろん、「慰安婦問題を重視してますよ」という文大統領による国内向けのアピールに違いない。
文政権は前々から、「被害者中心主義」を原則にこの問題を解決すると国民に約束しているから、その中心にいるイ・ヨンスさんを無視することは絶対にできない。
ただ晩餐会のように、自身の利益のために“政治利用”してきた面もある。
国民の大きな関心ごとである慰安婦問題のカギを握る人物だから、韓国社会でイさんが一民間人とは思えないほど重要視されているのは知ってた。けど、外交部(外務省)の上層部にいる人間を叱りつけるほどだとは思わなかったワ。
中央日報の記事(2021.11.30)
慰安婦被害者の李容洙さん、外交部次官を叱責…「空虚な約束ではなく国連に行こう」
外交部の次官と会ったイさんは、「韓国政府は慰安婦問題解決に向けた何の行動と対策もなく空虚な約束ばかりするな」と叱責した上で、「慰安婦問題の『被害者中心』の解決に向け国連拷問等防止条約(CAT)解決手続きにこれを回付してほしい」と要請した。
政府の原則がブーメランとなった次官は、「検討したい。ムン・ジェイン大統領とチョン・ウィヨン長官(外務大臣)と面談して伝えたい」と答えたとか。
ことし1月におこなわれた慰安婦訴訟で、韓国の裁判所は日本の主権を認めず、日本政府に元慰安婦への賠償を命じるという考えられない判決を出した。当然、日本は激怒。
日本か元慰安婦か?
究極の二択を迫られた韓国政府は「裁判所の判断を尊重し、慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復するため、政府ができる努力をすべてしていく」と宣言すると同時に、2015年に結ばれた慰安婦合意は「公式合意」だと明言した。
中央日報(2021.01.09)
韓国外交部、判決の日に「2015年慰安婦合意は公式合意」
慰安婦問題の「最終的な解決」を約束した合意と、日本政府に賠償を命じたこの判決が同時に解決できるワケがない。
判決が出ても動かない韓国政府に業を煮やしたイさんは、国際司法裁判所(ICJ)へ提訴して慰安婦問題の決着をつけようと提案する。
が、日本との関係悪化を嫌った韓国政府は、「慰安婦被害者の名誉と尊厳を回復する」などと口であれこれ言うだけで、具体的には何もせず。
動かざること山のごとし。
政府の本音をいえばイ・ヨンスさんには、ただ静かにしていてほしいと思っているはずだ。
消極的な政府とは対照的にアクティブなイさんは、最近は国連拷問等防止条約に基づいて慰安婦問題を解決しようと訴えた。
これは日本との同意がなくても、韓国が単独で手続を進めることができるから、つまり「やらない理由」として、日本を使うことができなくなる。
でも外交部次官の返事は「検討したい。」と頼りない。
次官の次にイさんは首相と面談し、「慰安婦被害者の大部分が亡くなった状況で、韓国政府は時間が過ぎるのを待っているだけのようだ」と叱って、国連拷問禁止委員会への付託を再び訴えた。
対して首相は次官と同じように、「ムン・ジェイン大統領に報告したい」と答える。
つまり文政権は、慰安婦問題を国連のステージに移すことを心底嫌がっているということだ。
15年の日韓合意で慰安婦問題の解決を確認した以上、上の件は韓国の国内問題だから、日本政府がどーこー言うことはなく、生温かい目で見ているはず。
(いまはコロナで忙しくて見てないかも)
韓国政府は「被害者中心主義」を強く国民に訴えていたにもかかわらず、実は「検討したい」「大統領に報告したい」なんて言葉を繰り返すだけで、被害者の声を実質スルーしているから、イさんが「空虚な約束ではなく国連に行こう」と強く迫ることとなった。
ちなみにイさんは韓国の与党と3つの野党の指導部の人間と面談して、国連拷問禁止委員会への付託を訴えたという。
日本じゃあり得ないようなスーパー民間人を生んだのも、文政権が「被害者中心主義」をアピールした結果でもある。
慰安婦問題を国際司法裁判所や国連拷問禁止委員会に持って行くという報道は、日本ではほとんど話題になってない。
合意を結んで解決を確認し、すべての約束を守った日本政府がまたこの問題の解決に動き出すとは思えない。いつもの「戦略的無視」で対応するだけだろう。
「被害者中心主義」を掲げる文政権は慰安婦財団を解散させて、合意を実質的に破ったはいいけど(いや良くないけど)、そのあとはまったくのノープランだった。
朝鮮日報が非難するように合意を結んだ前政権を否定し、その努力の結晶を破壊しただけで、新しく何をどう建設するか文政権は何も準備していなかった。(2018/11/22)。
現在の与党は「10億円で(慰安婦被害者の)おばあさんたちを売った」「日本の汚い金は返さなければならない」と前政権を非難してきた。だが、自分たちはどのようにして真の謝罪と法的責任認定を引き出すのかについて、何の答えも出していないし、答えがあるわけでもない。
慰安婦財団解散、「文在寅式解決法」とは一体何なのか
日韓最大の外交問題だった慰安婦問題を解決した画期的合意を壊して、「おばあさんたちを売った」とこき下ろす。
で、どうなった?
「真の謝罪と法的責任認定を引き出す」と言ってもこの3年間、それはできなかったし、日本を怒らせて関係を戦後最悪レベルにまで悪化させて、しまいには「日本の汚い金は返さなければならない」が「慰安婦合意は公式合意と認める」となった。
「その後」を考えずにただ否定して破壊しただけから、日本からは相手にされず、イ・ヨンスさんからは責されて、いまは空虚な約束をして時間を稼ぐだけとなってしまった。
「文在寅式解決法」とはホントに一体何だったのか。
あれは前政権ではなくて韓国と結んだ合意だから、韓国政府はそれを優先して被害者を説得するべきだった。
それをしないで、合意も被害者中心主義も守る!なんてできない約束をした時点で、こうなる未来は見えていた。
文政権はこの板ばさみ状態を、来年の春に発足する新政権にそのまま丸投げするつもりなのだろうか。
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> 対して首相は時間と同じように、「ムン・ジェイン大統領に報告したい」と答える。
一見すると意味が通っているように思えて見過ごしましたが、「何か変だな?」と気づいたところです。
時間 → 次官 ですよね、たぶん。
わわっ、その通りです。
ご指摘ありがとうございます。
> 「文在寅式解決法」とはホントに一体何だったのか。
(途中省略)
> できない約束をした時点で、こうなる未来は見えていた。
> 文政権はこの板ばさみ状態を、来年の春に発足する新政権にそのまま丸投げするつもりなのだろうか。
その通りだと思います。政治家、とりわけ韓国の政治家にはそういう人物が多いと思う。
でなければ与野党がひっくり返って、今度は別の政権が、また新たにできない約束をするのでしょう。