【日本語を話すな】中国で起きる反日騒動の“正体”は？

先週、日本は福島原発の処理水を海へ放出した。
汚染水から、できる限り放射線物質を取り除いて、それを海へ流すことは中国やフランスの原発でも行われている常識的なやり方だ。
トリチウムを除去することはできないが、トリチウムはバナナや雨水にも含まれているから、人は意識しないだけで、日常的に被ばくしているのだ。
もっとも重要なことその量。

ニューズウィーク誌の記事が伝えるように、日本の処理水は科学的には問題ない。（2023年8月23日）

「福島の魚を一生食べ続けてもトリチウム摂取量はバナナひと口分」──処理水放出、海外専門家の見方

福島の魚介類を死ぬまで、毎日山盛り食べても、バナナ１本分の被ばく量を超えることはない。
だから、日本人はこれからも健康な生活を続けていくことができる。

でも、残念なことに、中国が激しく反発している。
それだけなら、まだよかったのだけど、福島の飲食店や旅館に中国からの迷惑電話が殺到しているという。
それがあまりにひどく、電話線を抜いた店もあるという。
中国にいる日本人はもっと大変だ。
日本人学校では、石や卵が投げられる嫌がらせが起きていて、中国の日本大使館は、不測の事態が起きる可能性があることから、外出の際は大きな声で日本語を話さないようにするなど、慎重な行動をとるよう日本人に呼びかけた。

ただ、中国は日本に文句を言える立場ではない。
というのは、中国の原発が福島の処理水の6.5倍のトリチウムを含む水を海へ流しているのだから。
日本の処理水は控えめに言っても、それよりずっと安全だ。
今回の一連の騒ぎを知ると、10年ほど前に起きた「2012年の中国における反日活動」を思い出しす。

2012年に尖閣諸島をめぐって、中国で日本に対する抗議デモが各地で発生した。
それはすぐに過激化していき、日系のスーパーやコンビニが暴徒に破壊され、商品を略奪された。
この騒動では、オーナーが中国人であっても、日本料理店や日本車が破壊され、日本車に乗っていた中国人男性は凶器で殴られて、右半身不随になってしまった。

ボクが恐る恐る中国を旅行したのは、その翌年か、２年後のこと。
でも、実際には、ホテルやレストランにいた中国人は、ボクが日本人だと分かっても、退屈そうに淡々と仕事をこなして、不快な思いをすることはなかった。
どこに行っても普通に旅行を楽しむできたから、「なんだ。大したことなかったんや」という安心感を持つに至る。
でも、太原という地方都市で、日本語ガイドと一緒にミニバスに乗った際、前方にこんなステッカーを見て、体が一瞬フリーズしてしまった。

「打倒！小日本」と書いてある。
見にくくて申し訳ないのだが、それにはワケがある。
小日本とは日本に対する侮辱的な表現で、反日デモでよく使われるスローガンだ。
ガイドもこのステッカーに驚いて、「ここで日本語は使わないでください」と小さな声で言う。
だから、遠くからこっそり撮影した。

バスから降りた後、ガイドはこんな話をする。

「反日デモをしていたのは、全体から見ればほんの一部の人たちで、ほとんどの中国人は『我関せず』の態度で見ていました。日本が嫌いで許せないという動機よりも、貧しくて社会に不満を持っていた人たちがあのデモを利用して、憂さ晴らしをしていた面が大きいんですよ。あのステッカーを見たのは本当に久しぶりです。運転手がどんな理由で、貼っているのか分かりませんが、普通の人がアレを見たら『まだこんな物を貼っているのか！』と驚くだけでしょう」

最近の中国は不景気で、多くの若者が就職につけず、社会全体でストレスが高まっている。
前回の反日デモでも今回の騒動でも、「官製」の要素があることは間違いない。
福島や日本人学校に嫌がらせをした人間も、こうした現状に怒れる若者で、一般の中国人は処理水の放出にほとんど関心が無いと思う。
それにしても、中国にいる日本人が、また日本語を話しにくくなる状況になるのは本当に残念。

日本の海洋放出に対して、中国のように強硬に反対する国は世界的にも例外的だ。
イギリスBBCの記者は、もし福島の処理水の影響で、日本の水産物を食べることが心配なら、どこの国の水産物も食べない方がいいと指摘した。
欧米をはじめ、世界の多くの国が日本の対応を認めている。
科学的な観点から見れば、日本のしていることは常識的で正しい。
日本は中国を直接相手にするよりも、国際世論を味方につけるために、情報戦を制することが必要だ。

2012年に大規模な反日デモが起こってから、日本を旅行する中国人観光客は激増し、日中は距離を縮めてきた。
なんてことを思っていたから、「…そんなふうに考えていた時期が俺にもありました」というオチになることは想像していなかった。