いまのアメリカ人にとって、韓国と北朝鮮はどんな国?

 

きのう行なわれたサッカーUー20女子ワールドカップの決勝戦で、日本は0−1で北朝鮮に負け、優勝を逃してしまった。
FIFA(国際サッカー連盟)が提供している動画配信サービス、『FIFA+』でこの試合を見ていたら、外国人のアナウンサーは北朝鮮を英語で「ディー・ピー・アール」と呼んでいた。
日本では「DPR」という言葉に馴染みはないが、これは北朝鮮の正式名称「Democratic People’s Republic of Korea(朝鮮民主主義人民共和国)」を略した言い方だ。
『FIFA+』ではこの試合を「Korea DPR v Japan」と表記している。

 

朝鮮は英語で「コリア」となって、北にある国が「ノースコリア」、南は「サウスコリア」となる。サウスコリアをそのまま漢字にすれば「南朝鮮」になるから、10年以上前に見た台湾の新聞ではそう表記されていた。
しかし、日本では「韓国」の表記が一般的で、コリアといえば韓国、ノースコリアなら北朝鮮になる。それは日本だけなく、世界的な常識だと、思っていた時期が俺にもありました。
以前バングラデシュ人と話をしていて、ボクが「コリアが〜」と言うと、「ちょっと待って」と話を止められ、「それはサウスコリアのこと? それともノースコリア?」と確認された。
まさか、「コリア=韓国」が通用しないとは思わなかった。

知人のアメリカ人に、あのバングラデシュ人の反応は意外だったと話すと、「そんな珍しいことでもないでしょ。アメリカでも同じ人はいるし」と言って、自分の母親を例に出す。
彼女がソウルの学校で英語を教えることになって、ニューヨークで高校教師をしていた母親に「わたし、もうすぐコリアへ行くことになったから」と話すと、こう聞かれたという。

「ノースとサウス、あんたが行くのはどっちのコリア?」

いやいや、アメリカ人が北朝鮮で働くことなんて常識的にありえんだろ、と日本人のボクでも思うのだけど、コリアに対する母親の認識はこんなものだったらしい。

 

韓国と北朝鮮はもとは同じ国(朝鮮)だったのが、1910年に日本に併合され、戦後になってからそれぞれ別の国として独立した。1950年に朝鮮戦争がはじまると、米軍が支援する韓国と中国が支援する北朝鮮が戦い、南北合わせて400万人以上が死亡したとされている。
韓国と北朝鮮は今でも敵対しているから、韓国メディアを見ているとこんな記事がよくある。

中央日報の記事(2024.04.24)

北朝鮮の金与正氏「韓国傀儡軍部の不良親分、過度にほえている」

不良親分(アメリカ)に支配されている韓国は、アメリカの意のままに動くあやつり人形も同然というのが北朝鮮の認識。
いまのアメリカの立場は韓国に友好的で、北朝鮮とは敵対している。

北朝鮮は核・ミサイルの開発や実験を何度もおこない、現在ではアメリカ本土を攻撃できるミサイルを保有していると考えられている。
アメリカはそんな北朝鮮を「脅威」と見なして経済制裁をすると同時に、同盟国の韓国と「対北」を想定した合同軍事訓練をしているから、北朝鮮は上の記事のように激しく反発する。
2014年に英BBCが行った世論調査で、「北朝鮮は世界に良い影響を与えている」と答えたアメリカ人は4%で、90%の人が「世界に悪影響を与えている」と答えた。
アメリカ政府は北朝鮮を「悪の枢軸」や「ならず者国家」と呼んだこともある。
「世界で最も北朝鮮を嫌う国」の1つがアメリカだ。

アメリカ人がそんな認識を持った要因に「ワームビア事件」がある。
2016年の1月、北朝鮮のツアーに参加していたアメリカ人学生のワームビアが北朝鮮に拘束された。
翌年の6月、彼は昏睡状態で解放されて帰国したが、その直後に死亡する。
父親はワームビアの状態について、「うなり声を上げ、人間でないような音を出していた。目が見えず耳が聞こえない状態で、腕と脚は完全に変形していた」と話し、アメリカはそれを北朝鮮による拷問と暴行の結果と判断した。

アメリカと北朝鮮の敵対関係は、朝鮮戦争で戦ったことからはじまったという。

「The source of the hostilities dates back to the Korean War in which both countries fought on opposite sides」(North Korea–United States relations

アメリカ軍が韓国を支援することについて、アメリカ国民の支持は着実に高まっている。1990年には支持する人は26%だけだったが、2017年には62%と約3倍に増加した。

 

ということで、客観的に見れば韓国と北朝鮮の違いは明らかだから、「コリアに働きに行く」とアメリカ人が聞いて、どちらか分からないというのはやっぱり不思議に感じる。
別のアメリカ人(40代の男性)に話すと、彼も同意して、

「いや、アメリカ人が“コリア”と聞いたら、普通は韓国を連想する。ノースかサウスか聞いたその女性は例外的だ。政治にまったく関心が無いんだろうな。いまの若い世代ではKーPOPが有名だから、そんな人は本当に少ないと思う」

と言ったあと、彼はこう付け加えた。

「ノースじゃなくて、“イービル(邪悪な)”でもいい。“イービルコリア”と聞いたら、アメリカ人なら北朝鮮を思い浮かべる。アメリカ人は地理が苦手だから、その方が分かりやすい」

彼は思いつきでそんな冗談を言ったと思うけど、案外正しいかもしれない。アメリカとの政治的な関係を重視して、「サウス/ノース」よりも「グッド/イービル」で分けたほうが、理解が早い人もいる気がする。きっと「DPR」よりは分かりやすい。
北朝鮮はアメリカを「不良親分」と呼んでいるし、まぁどっちもどっちだ。

 

 

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1 個のコメント

  • > サウスコリアをそのまま漢字にすれば「南朝鮮」になるから、10年以上前に見た台湾の新聞ではそう表記されていた。

    いや、台湾の新聞だけじゃありません。
    50年くらい前、70年安保闘争の熱気がまだ冷めやらぬ頃、左翼系・共産党系の新聞や雑誌には「南朝鮮」という表記がしてあったはずです。どこかでそのような新聞記事を見て、「どうしてこんな奇妙な国名を使うのだろう、韓国でいいじゃん」という疑問を、子供心に抱いたことを覚えています。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。