日本人の「すする文化」 その歴史や理由、外国人の反応

 

ことしの冬に、あるフランス人観光客の一言がプチ炎上した。
その人はテレビ番組のインタビューに応じて、そば屋で食事をしていたとき、日本人の客がそばをすすって食べていたから、その音が気になってイライラしたと言う。
日本の食習慣を否定する発言に、ネットで「嫌なら食うな」、「これから麺を食べるときは耳栓をしろ」と怒る愛国者がチラホラいた。

しかし、日本人でも麺をすする音を嫌がる人は多い。
先月、うどんの全国チェーン店のCMで、有名女優がうどんを豪快にすすると、「音がうるさすぎ」「汚すぎる」といった批判の声が上がり、「ヌーハラ」がトレンド入りした。
ただ、ネット掲示板を見ると、これを問題視する人は少数派だ。

・粘度の低い汁とかつゆを伴う麺はすするのが正しい食べ方
・あーハイハイと聞き流せばいいだけの話
・麺をすすっているやつを見ると育ちの悪さを察する
・国連から勧告でもされたんか?
・そもそも誰が不快だと言ってどこで炎上しているのかというね

麺をすする音は、どれだけ人を不快にさせるのか?
そのレベルは人によって違うけれど、個人的には、店内の客が振り向くレベルの音でなかったら気にならない。ネットを見ても、そのぐらいの人が多いようだ。口を閉じないで、「クチャクチャ」と咀嚼音を立てて食べるクチャラーよりは洗練されている。
しかし、嫌いな人にとっては拷問で、耐えることができない。王貞治の次女・王理恵さんは、婚約相手の医師がそばをすすって食べたことが原因の1つになって、婚約を解消した。

 

日本人は江戸時代には、そばを「ズルズルっ」とすすって食べていた。そばが全国に広がったのは江戸時代だから、この習慣もいっしょに普及したのだろう。
日本人が麺をすすって食べるようになった理由を調べると、ハッキリした定説はないが、こんなものがある。

・音を出すことで、食事を楽しんでいることを示す。
・空気を混ぜて口に入れることで、口がやけどすることを防ぐ。
・そうすることによって、汁が麺によりからむようになり、おいしさがマシマシになる。
・ワインのテイスティングと同じで、香りを味わうため。ワインをテイスティングするとき、空気と一緒に口に入れ、鼻からその空気を出すことで、香りを確認できる。

江戸時代でも、大きな音を立てて食べる行為はマナー違反だったらしい。でも、そばは庶民が屋台でササッと食べるものだったから、うるさく言われなかったんでしょ。

戦国時代にやって来たルイス・フロイスは、ヨーロッパ人の間では食事をする際、音を立てて口を鳴らすことは卑しい振る舞いとされているが、日本人は立派なことだと思っていると指摘しました。
これは麺を食べるのではなく、「舌鼓を打つ」ということだろう。
日本では昔、おいしい料理を食べたとき、料理人に感謝の気持ちを伝えるため、口を鳴らす習慣があった。
フロイスの書いた内容はちょっと不明だが、戦国時代の日本には音を立てて食べる文化があったと考えていい。
ちなみに、昔の日本では、西洋式に食器を置いて食べると、着物の袖がほかの食べ物に触れて汚れてしまうため、日本人は食器を手に持って口に近づけて食べていた。それと、汁物をすすって飲むことには関係があると思う。

 

海外では、音を立てて食事をすることは一般的にはマナー違反とされる。
バンコクに住んでいるスウェーデン人女性から、レストランで日本人が近くにいたら、席を変えるようにしていると聞いた。以前、近くにいた日本人の客が麺をすすって食べていたから、その音を聞いて背筋がゾッとするほど気持ち悪くなり、食欲が一瞬でうせたという。
しかし、そんな「ズルズル耐性」の低い外国人ばかりでもない。

海外メディアの「Sora News 24」が外国人読者(主に英語圏)を対象に、「そばなどの麺類をすすって食べる日本人の習慣は不快ですか?」と質問し、それを記事にした。(Feb 5, 2024)

Is Japan’s custom of slurping noodles irritating, and why do they do it?

その結果、「不快です」と答えたのはわずか11%(111票)で、「不快ではありません」という人が89%(854票)もいた。
これは読者アンケートだから、どこまで一般化できるかわからないが、それでもこの結果は圧倒的だ。

コメントを見ると、

「私はアメリカでも、日本料理店では麺類をすすって食べている」
「音は気になるが、私が文句を言う筋合いではない。楽しく食事はできている」
「東京では、東京人のように麺をすすろう。その音が迷惑なら出て行け。すすらないのは、感謝の気持ちを表していない」

と、この習慣に好意的な意見が多い。
クチャラーや、ビールのCMでゴクゴクとのどを動かす音の方が不快だという人もいた。
結局、海外ではNGでも、日本国内で麺類を食べるとき、すすって食べてもほとんどの外国人はスルーするか、不快に思っても大したレベルではない。むしろ最近では、それを気にする日本人の方が多いかも。

 

 

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2 件のコメント

  • ソバやうどんみたいに汁が多いものを箸で食べるとすれば、すする以外に食べようがないとおもうのですが。その逆に、ソースが絡んだ麺をフォークで食べるときには、すするのは食べにくい。フォークに巻き付ける方が(その食べ方を覚えてしまえば)食べやすいです。
    要するに、現地の食べ物に合った食べ方は、現地の食べ方に反映されているのが当然です。食べ物と食べ方についても、その食べ物のオリジナルである土地の文化を尊重すべきでは。文化を無視して、「どちらが良い・悪い」の話じゃないでしょう。
    フランスは食文化の大国かもしれんが、他国にまで自分たちのやり方を押し付けないでほしいですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。