日韓の“歴史バトル” 韓国民、支援するつもりが逆神に

 

判断力の欠けた善意は有害でしかない。最近、登山を愛する人たちが集まるSNSグループでそんな例を見た。
そこには、数日前に山へ登って戻ってこない人がいて、家族が憔悴しているという投稿があって、遭難者の目撃情報を求めていた。
それを見て、思わず「無事であることをお祈りします」とメッセージをしなくて良かったと思った。というのは、すでにそんなメッセージが洪水のように来ていて、誰かが「投稿者にとって重要な情報が見つかりにくくなるから、“お祈りメール”は控えるべき」とコメントしていたから。
具体的な情報を知らない場合は「何もしない」ということが最も効果的な支援になる。
善意と判断力が両立していないと、応援しているつもりが、逆に全力で足を引っ張ることになってしまう。

 

先日、日本の元セクシー女優で今は実業家の女性が韓国を訪れ、日本統治時代に独立運動家を収容していたソウルの西大門刑務所(今は歴史館)を見学し、その様子を動画で紹介した。
韓国でここは独立運動家が拷問されたり、処刑されたりした「悪魔の館」のような恐ろしいイメージがある。
彼女は動画の中で、「日本人は残酷だなと思いました。日本人を嫌いになりそう」、「独立運動家たちのおかげで、いまの韓国があることにとても感謝しています」などと言ったため、韓国民を感激させた。

韓国民の聖地・西大門刑務所を訪れた日本人に”称賛”の嵐

しかし、日本と韓国では、日本の統治時代についての見方はかなり違っている。
韓国の独立運動家が日本ではテロリストになるように、正義と悪が逆転することも多い。
韓国側が喜んだということは、この女性が韓国サイドに立って意見を言ったことを意味するから、日本のメディアがそれを記事にすると、彼女には批判やツッコミが殺到する。
言葉の解釈もこの不幸を助長した。
本人は動画で「なんか日本人を嫌いになりそう」と言ったのに、字幕にはハングル文字で「日本人を一度、殴ってやりたい」と書いてあり、そのパワーワードが韓国メディアの見いだしに使われた。
日韓では基準が違っていて、日本ではNGになりそうな誇張表現が韓国ではOKになる。例えば大谷選手が「韓国は好きな国の一つ」と言ったのを、韓国メディアが「韓国は最も好きな国」と報じると、日本のメディアはそれを“誤報”と表現した。このあたりは感覚の違いでどうしようもない。

 

話を戻すと、女性は視聴者の反発を受けて動画を削除し、勉強不足だったことを認め、「すみませんでした」と謝罪する動画を投稿した。すると今度は、韓国最大の全国紙・朝鮮日報がそれを記事にして報じる。(2024/11/02)

韓国・西大門刑務所で日本の蛮行を批判した日本人女優、自国で非難殺到…結局動画が非公開に

今回の一件、韓国側では、「彼女は歴史の真実を明らかにしたから、日本の極右勢力にいじめられている」と映っている。こうなると、日韓恒例の「歴史バトル」というか、罵倒合戦に発展することは避けられない。
この女性のSNSを見ると、「彼女は何も悪くない。日本が歴史を正しく教えていないことが問題だ」と韓国人が言うと、「それはこっちのセリフだ!」と日本人が反論して対立し、コメントがどんどん削除されていた。
近代史は日韓の地雷原だから、こんな争いは本当によく起こる。
韓国人のコメントを見ていると、こんなことを言う人も多くいた。

「제 은혜를 갚아야 할 때가 왔다」

機械翻訳すると「恩返しをする時がきた」という意味になる。この女性の歴史の真実を伝えたことで、理不尽な攻撃を受けている。だから、今度は自分たちがその勇気に応える番だと思っているらしい。
この人も同じだ。

「은혜갚는 까치의 심정으로 냅다 구독하고 갑니다!」
(恩返しのカササギの心境で、さっそく購読していきます!)

「購読」というのはチャンネル登録のことだとして、「恩返しのカササギ」って何だろうと思って調べてみたら、韓国にはこんな昔話があることを知った。

昔、ある村で、大きなヘビに雛が食べられそうになったところ、それを見た男が矢を放ってヘビを仕留め、雛を助けてあげた。カササギの親たちは「子どもたちを助けてくれてありがとうございます。このご恩は一生忘れません」と感謝し、何度もお礼を言う。
しかし、今度はヘビのターン。
殺されたヘビの妻が人間の女性の姿になって現れ、男の体に巻き付いて絞め殺そうとする。しかし、その寸前、カササギの親と仲間たちが命をかけて彼を助けてくれた。

韓国的な価値観からしたら、今回の件にこの昔話を当てはめて、歴史をわい曲する極右勢力をヘビ、襲われている雛を女性、カササギを自分たちと考えることは自然だと思う。
その気持ちから、チャンネル登録するだけならよかった。しかし、韓国のネットユーザーは日本人のネットユーザーを挑発するコメントを連発するから、援護射撃をしているつもりなんだろうけど、コメント欄が炎上して彼女にダメージを与えていた。だから、削除されているのだろうけど。

この女性のためを思えば、この場合は「何もコメントしない」が最適解。
でも、「日本人は残酷。独立運動家に感謝している」と言ったことで、彼女が日本人から「帰ってこなくていい」、「無知は罪」と非難されているのを見ると、韓国人としてはきっと「恩返しのカササギの心境」になって黙ってはいられない。しかし、結果的には最悪の逆神になっている。
でも、韓国人のコメントを見ていると、「この人が服を着たのは初めて見た」という書き込みがあった。過去に(無料で)動画を見ていたから、今「恩返しのカササギ」の気持ちになる人がいるかもしれない。
彼女を応援する理由は西大門刑務所の動画を見たからか、それとも過去作品を見たからか、それかその両方なのか、可能性としてはどれもありそうでよく分からない。

 

ところで、発端となった女性の方は、あまりダメージは受けていないようだ。
日韓のメディアに取り上げられて自分への注目度がマックスになっている今、SNSで仮想通貨の登録方法を説明し、自分経由で登録すると特典をもらえますよと全力アピールしている。
この騒動はすべて彼女の手のひらの上にあるかもしれない。

 

 

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3 件のコメント

  • 現在、韓国で西大門刑務所は大日本帝国の統治時期に日本人が朝鮮の独立運動家を捕まえて拷問し、死刑にした場所としてイメージ化されています。しかし、これは徹底した歪曲です。
    ウィキペディアでも西大門刑務所を「日帝統監府が植民統治に抵抗する運動家たちを投獄するために」作ったと書いていますが、これは嘘です。
    ここはただの一般的な刑務所でした。現在の死刑場で死刑が執行された1922-1945年までの記録で、死刑になった朝鮮の独立運動家はたったの19人でしたが、一般の雑犯は合わせて178人でした。反日のために操作された舞台です。

  • 韓国は早く対馬の仏像を返しなさいよ。
    あの件、竹島(独島)の件とは全然違って、現代の「ユネスコ条約」に反する行為として世界中から批判されているのが分らないのですか? それが元で、韓国には、ルーブル美術館をはじめ世界中の有名美術館から「所蔵品の貸出を断られる」といった結果を生じているというのに。

  • そうですね。
    ここは一般的な刑務所で、独立運動家だけを収容するためのものではありませんでした。
    でも、韓国や日本ではそのイメージが独り歩きしている気がします。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。