「捕鯨は日本の伝統文化だ!」が欧米人には通じない理由

 

知人のポーランド人(30代・男性)は、日本が「前前前世」並みに大大大好きで、日本企業に就職することを決めた。
日本の魅力について彼に聞くと、日本人は清潔好きで街がきれいで、食べ物がおいしく、日本人は言ったことをしっかり守るからと絶賛する。
日本の文化で悪いところは特に見当たらないと言う彼に、日本にはクジラを食べる文化があるけれど、それについてどう思うか尋ねると、彼は一瞬絶句してこう言った。

「私は日本に1年以上住んでいるけど、そんな肉はレストランやスーパーで見たことがなかった。いま初めてそんな話を聞いてすごく驚いたよ…」

 

このポーランド人は日本の捕鯨を知って、クジラが絶滅することを心配した。しかし、日本もその点はしっかり考えて捕まえているから、日本のせいでクジラがこの世から消滅することはない。(日本の捕鯨
絶滅の不安は無いと分かると、次に彼は「クジラには知能がある。それを食べることは残酷で、私は受け入れることができない」と言った。
これは科学ではなく文化の違いで、そう感じないように外国人の感覚や意識を変えることはできない。「クジラが嫌なら、鹿でも食べればいいじゃない」とマリーアントワネットみたいなことを言うしかない。

 

彼に限らず、日本人のクジラを食べる文化は欧米人には激しく受けが悪い。それで日本が嫌悪や憎悪の対象になることはあっても、好感度が上がることはまずない。
日本の捕鯨を特に憎んでいるのが、反捕鯨団体のシー・シェパード(SS)だ。
SSは反捕鯨の名のもとに、捕鯨船に船をぶつけて沈没させるといった危険な行為をして、日本やアメリカ、カナダ政府を怒らせ、「テロリスト」と名指し、アメリカ連邦高裁は「海賊」と認定した。
SSは日本に対しては、調査捕鯨船団へ不法侵入をしようとしたり、体当たりをしたりして何度も活動を妨害してきた。酪酸入りの瓶が投げ込み、日本船の乗組員3人にケガを負わせたこともある。自分の信じる正義のためなら、暴力も許されるという発想はまさにテロリストのもの。

 

忍耐強さでは国際的に高く評価される日本人も、ついにその限界を超え、海上保安庁がSSの設立者ポール・ワトソンの逮捕状を取り、国際刑事警察機構(ICPO)が国際手配した。
そして、今年7月にワトソンがデンマークで警察に拘束されたため、海上保安庁はデンマーク側に身柄の引き渡しを求めた。
ワトソンは10年以上前に、別件でドイツに身柄を拘束されたが、逃亡しやがった。
「エコ・テロリスト」には正義(法の裁き)を受けさせなければならない。だから、日本の要求は当然で正当なものなのに、その話が欧米に広まると、ワトソンの日本移送に反対する人たちが現れた。
フランスのマクロン大統領もその1人で、ワトソンを日本へ引き渡さないようデンマーク側に働きかけた。

ヨーロッパでワトソンを支持する動きに対して、日本の林官房長官は「関係国機関への必要な働きかけを含め、適切に対応していく」と述べ、デンマークがワトソンを引き渡すかどうかが注目されていた。
しかし残念ながら、日本外交は敗北したようだ。

産経新聞の社説(2024/12/24)

海保による国際手配は国際刑事警察機構(ICPO)を通じた正当なものだ。法の裁きを受けさせずにデンマークが釈放したことは、SSの暴力を伴う無法の容認を意味する。

シー・シェパード 釈放は日本外交の敗北だ

 

釈放されたワトソン容疑者はフランスへ行き、これからも反捕鯨活動を継続すると“テロ宣言”を表明した。
「日本なら怒らせても大したことはない」と判断したのか知らないが、まさかデンマークが日本の国際法に基づく要求を却下するとは思わなかったぜ。「本当のテロリストは日本だ」と公言する人物を野に放つとは。
日本政府はデンマークに伝家の宝刀である「遺憾の意」を伝えた。そんなぬるい態度を見せるから、フランスやデンマークに舐められてしまう。

これに日本のネット民の感想は?

・まあクジラでも食べて落ち着けよ
・油を取るためだけにクジラを捕って殺してきた野蛮な西洋人が何言ってんだ…
・テロリストがなんか言ってる
・フランスでの英語のニュース番組で確かに何回かこの報道やってたな
何度も名指しでジャパンジャパン言ってるからかなり耳に残る
・こういう文句って結局言い易い国に言ってるだけなんだよな
本当にやばい国はスルー

「牛や豚、鶏はOK! でも、クジラやイルカはアウト~!」という西洋基準が日本人には受け入れられない。

 

ここで話を冒頭のポーランド人に戻そう。
捕鯨やクジラを食べることは日本の伝統文化の一つであることを伝えると、彼は「それが日本の魅力であり、欠点でもある」と指摘した。

日本人は昔から伝わる伝統や文化に高い価値を感じるため、それを大切にして後世に伝えてきた。でも、彼から見たら、日本人はそれをそのまま守ることにこだわり、ヨーロッパのように時代に応じて柔軟に変えようとしない。
日本には高い技術があるのに、社会のIT化は進んでいなくて、一般の日本人は昔のポーランド人のように今でも現金をよく使っている。そもそも、日本人は変化を嫌っているように見える。
今ではいろいろな肉があるのだから、クジラにこだわる理由はない。「伝統文化だからこれからも守る」という日本人がよく言う理屈は、彼が伝統文化にそこまで高い価値を感じていないため、説得力に欠けるらしい。

後日、日本に住んでいたアメリカ人に聞くと、彼の意見もポーランド人と同じだ。
日本人は歴史を大切にして、伝統や文化を守っているけれど、悪く言うと柔軟性がない。アメリカ人なら、時代の変化に応じて変えるようなものでも、日本人は変えようとしない。たとえば、現代の価値観では動物虐待になる行事も、「これは神事だから、守り続けなければならない」と主張して変えることを拒否する。大相撲で女性を土俵に上げることを認めないのは、現代のアメリカ社会ならまず考えられない。

欧米人が日本人について伝統文化を守り、現代に伝えていることを称賛したという話はよく聞く。
しかし、今回のポーランド人とアメリカ人の話を聞くと、そもそも欧米人は伝統文化を日本人ほど大切に思わってなく、そのままの形で守って伝えるという意識も薄いという気がしてきた。だから、「捕鯨は伝統だ!」が通じない。
こんな視点はなかったので、目からウロコの気分。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。