ヒトラーとワーゲン 韓国と世界の「戦犯企業」に対する違い

韓国語には「戦犯企業」という独特の言葉がある。
韓国は1910年から1945年まで、日本に不法に支配されたとして「日帝強占期」と呼び、その期間中に、日本が朝朝鮮人を強制連行して働かせた日本企業を「戦犯企業」と呼んでいる。そんな戦犯企業が韓国では 250社以上あって、日韓関係が悪化すると「悪魔化」され、よく非難やボイコットの対象にされる。

もちろん、これは韓国側の認識で、日本では 180度ひっくり返る。あの統治は合法だったし、強制連行なんて実態はなく、あれは合法的な徴用だった。「戦争犯罪」を犯した日本企業なんて存在しない。だから、韓国にいる日本人はあのレッテル貼りをとても不愉快に思っている。
しかし、一番の「被害者」はそうした企業で働く韓国人社員とも言える。
友人の韓国人がその一人で、2019年に日本製品のボイコット運動が盛り上がったころ、韓国企業のビジネスパーソンに名刺を出したところ、「戦犯企業じゃないですか。それじゃ取引なんてできませんよ」と門前払いをくらった。

 

 

さて、2月26日は、1936年にアドルフ・ヒトラーがドイツにフォルクスワーゲンの最初の工場を建設した日だ。
ドイツ語でフォルクスは「国民や大衆」、ワーゲンは「車」を意味するから、フォルクスワーゲンは「国民車」となる。丸っこくてかわいい印象のフォルクスワーゲン・ビートルのファンは日本にも多い。
しかし、この車は悪魔によって生み出されたという暗い歴史を持つ。
アドルフ・ヒトラーが1934年に、国民車(フォルクスワーゲン)計画を提唱し、自動車設計者だったフェルディナント・ポルシェによって、後のフォルクスワーゲン・タイプ1となる小型車が開発されたのだ。これがフォルクスワーゲンの始まりとなる。
このポルシェ氏は高級自動車メーカー『ポルシェ』の創設者だ。彼もポルシェもヒトラーと深い関係があった。

1939年、ドイツ軍がポーランドへ侵攻して第二次世界大戦が始まると、フォルクスワーゲン社は戦車などを製造し、ナチスの戦争を支援した。当時、フランスやポーランド、ウクライナなど、ドイツが占領した国から多くの人が強制連行され、同社の生産ラインで過酷な労働をさせられた。
ドイツが降伏して戦争が終わると、フォルクスワーゲンの生産工場はイギリス軍が管理することになり、新しく生まれ変わることとなります。1948年にフォルクスワーゲン社長に任命されたノルトホフは「未来は過去と決別するときに始まる」と語り、新生フォルクスワーゲンの第一歩を踏み出した。

 

フォルクスワーゲンはヒトラーやナチスと深い関係があり、その戦争を支えていたため、韓国風にいえば「戦犯企業」となる。だから、Q&Aサイトのクォーラで、こんな質問が出てくる。

Should Volkswagen be boycotted because the Nazis made it?
(フォルクスワーゲンはナチスが作ったから、ボイコットされるべきか?)

この質問に寄せられた答えを日本語訳にして紹介しよう。


・もし、あなたがより劣った製品にお金を使うことに決めたら、あなたの決断で損害を受けるのは誰でしょうか? フォルクスワーゲン グループの株主とあなたです。

・私の考えでは、企業が犯罪を犯すことはできません。犯罪を犯すのは人間です。そして、たとえ VW(フォルクスワーゲン)の従業員の中に 65歳を超えて働いていた人がいたと仮定しても、少なくとも 2000年以降、ナチスの犯罪に関与した可能性のある人物は VWで働いていません。もう、それから 23年がたちました。現在 VWで働いている人の大半は、1990年以前には働いていませんでした。
いまの VWをボイコットすることで、あなたは誰を罰したいのですか?

・BMWはドイツ軍が使用したバイクを製造しました。
ポルシェはナチスのために戦車を製造しました。そう、アドルフ・ヒトラーとフェルディナント・ポルシェは仲良しだったのです。
ポルシェがヒトラーの 50歳の誕生日に専用の車を贈ったことをご存知ですか?
メルセデス・ベンツは、ヒトラー、ヒンデンブルク、ゲーリング、ヒムラーといったナチスの要人が乗るメルセデス・ベンツ・770を製造しました。
アウディはナチスのために、戦車や飛行機のエンジンを製造していました。
これらの会社はいずれも、過去を否定していません。そのことについて言及することを好まないのは理解できます。

・ヒトラーの支援がなければ、フォルクスワーゲンは存在しなかったでしょう。ヒトラーは、ドイツのすべての家庭が所有できるような、手頃な価格の自動車を生産するという夢を持っていました。

・現代のユダヤ人が、フォルクスワーゲンを乗りたくないと思っているわけではないでしょう? 人間の最大の勝利とは困難を克服することです。人間が自己憐憫に浸り、ネガティブなことばかり考えていると、役立たずの生き物になってしまいます。
ユダヤ人は多くの苦難に耐えてきました。私は彼らが他の誰よりも優れていると言うつもりはありませんが、少なくとも彼らは、真の勝利とは生きて耐えることだと知っています。

・フォルクスワーゲンは、一般の人々にとって手頃な車となるように作られました。フォルクスワーゲンのオーナーとして、私は特定の人々に対していかなる憎しみも感じません。

・ヘンリー・フォード(アメリカの自動車会社フォード・モーターの創設者)は、ヒトラーを支持し、外国人として初めてナチスに資金援助をした。その見返りとして、ヒトラーはヘンリー・フォードの大統領選挙への立候補を助けるために突撃隊の派遣を申し出た。
フォードはドイツ軍のために多くのトラックと装甲車を製造した。ヘンリー・フォードはヒトラーから、非ドイツ人に与えられたものとしては最高の「大十字ドイツ鷲勲章」を授与された。

 

ということで、見たかぎりでは、フォルクスワーゲンの車をボイコットしようという人は一人もいない。ナチスの被害国だったフランスやポーランドでは、ドイツメーカーの車が普通に販売され、道を走っている。世界的には、過去は過去として理解し、その罪を現在の企業に負わせないということが常識的だ。
「戦犯企業」という発想は本当に例外的で、こんな言葉を使っているのは韓国しか知らない。

ナチス・ドイツの時代に開発された飲み物にファンタがある。これもイスラエルをはじめ、世界中に問題なく販売されている。

【ファンタの歴史】ナチス・ドイツの時代に開発された理由

もっとも韓国でも、日本の「戦犯企業」の製品を愛用する人は多い。反日モードが盛り上がると敵視されることはあっても、人々はふだんは、「戦犯企業」というものをあまり意識していない気がする。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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