「パリは燃えているか?」
第二次世界大戦の末期、ヒトラーは降伏する前にパリを破壊するよう命じ、部下に電話でそう確認した。しかし、部下はその命令を無視したため、パリは守られた。
いっぽう、現代のネパールではそうはいかず、首都カトマンズは燃えてしまった。これから、ネパールで反政府デモが起きた原因について書いていこう。
デモの現状
ネパールはインドの北にあって、面積は日本の約4割しかない小さな国。
インド人が強引にグイグイと迫ってくるのに対して、ネパール人は穏やかな性格をしていたため、インド旅行で疲れた日本人旅行者のあいだで、ネパールは心を癒やすオアシスのような存在だった。これは2〜30年前の話だが、今でも国民性はあまり変わらないだろう。
しかし、今月はじめ、ネパールの首都カトマンズで大規模なデモが発生し、一部のデモ隊が暴徒となって議会やホテルに放火したり破壊活動をおこなった。軍が鎮圧に乗り出した結果、50人以上が死亡し、1000人以上が負傷した。
朝日新聞の記事(2025年9月9日)
ネパールのオリ首相が辞任 SNS閉鎖めぐる反発、抑えられず
イギリスBBCの記事(2025年9月9日)
ネパールでSNS禁止、抗議デモで19人死亡 政府は翌日に解除
前首相の妻は自宅でデモ隊に火をつけられ、生きたまま焼かれて死亡した。元首相や大臣も民衆に殴られたり蹴られたりし、大統領は軍のヘリコプターで急いで逃げ出した。
ブッダが生まれたこの国で、なんでこんな「蛮行」が起こったのか?
上の報道にあるように、それを理解するキーワードは「SNS」だ。政府は国民の口をふさごうとするという、致命的な失敗を犯した。
原因は「政治腐敗」「表現規制」にあり
先日、日本のお笑い芸人がユーチューブの番組に出演し、こんなことを言った。
「芸能人とかアスリートとか、そういう人以外、SNSをやるなって。素人が何発信してんだって、ずっと思ってるの」
するとすぐに批判が殺到した。
・芸能人だってどうせ裏垢使って素人に成りすまし誹謗中傷してるんだろ
・むしろ素人以外のSNSを禁止すべき
・これが天狗か
おまえらだけのもんじゃねーから
・芸能人様とアスリート以外はSNSやるな発言は言論弾圧
・動画消したのかよ。ダセエな。
金持ちになって全能感から勘違いして足掬われる王道パターンだな。
「燎原(りょうげん)の火」のように炎が広がって、今はまったく鎮火できていない。
その芸人はきっと気づいていなかっただろうけど、「特権意識」と「表現規制」が燃料となり、大炎上した。ネパールで発生したデモで「燃料」となったのも同じだ。
日本に住んでいるネパール人に今回の件を聞くと、彼はその原因として、その2つに加えて「政治腐敗」を指摘した。
「The protest was against corruption and corrupt politicians and the protest and rally was to be held peacefully but it went violent and deadly and took the drastic changes that made the Prime minister run away.」
(抗議活動は汚職と腐敗した政治家に対するもので、平和的におこなわれる予定だったが、暴力的になって致命的な事態に発展し、首相が逃亡した。)
彼によると、デモが起きた根本的な原因、国民の怒りの源はネパールの政治腐敗にあるという。
ネパールのネポキッズたちに怒りが集中
世界でも「最貧国」の1つとされるネパールでは、食べ物がなく、ザリガニやカエルを捕まえて食べる人もいる。働く場所がないため、多くの若者が海外に出稼ぎに行く人も多い。また、有力者とのつながりがなければ、良い仕事を見つけるのは難しい。
知人のネパール人にはコネがなく、祖国に希望が見えなかったため、日本の大学に留学した後、帰国せずに日本で生きていくことを決めた。
いっぽう、政治や司法の世界で働く特権階級は、まったく別の世界に住んでいる。彼らの子供たちはハイクラスのレストランで食事したり、高級車に乗ったり、海外で100万円以上はしそうな毛皮のコートを着たりして、その写真をSNSに投稿していた。なかには、約400万円分の高級ブランドの箱を使って、クリスマスツリーを作ったバカ息子もいる。
18世紀にフランス革命が起きたとき、王妃マリー・アントワネットが飢える民衆の苦しみを全く理解せず、「パンがなかったらケーキを食べればいいじゃない」と言ったという話がある。
※これは誤りで、実際には彼女はこのようなことを言っていなかったらしい。
ネパールの上流階級の子供たちも、貧困に苦しむ庶民の気持ちをまったく理解していなかった。彼らは承認欲求の化身で、モデルのような笑顔や決め顔をネット上に公開していた。ネパール国民なら、そんな夢のような生活は、政治家である親がワイロで得た「汚れた金」に支えられていることを誰でも知っている。
「ネポティズム(縁故主義)」で豪華な生活をしている子供たちは「ネポキッズ(nepokids)」と呼ばれるようになる。ネット上ではハッシュタグが付けられ、その投稿が拡散されることで、社会の不平等に対する若い世代の不満や怒りが広がっていった。
「ネポキッズ」たちの優雅な生活については以下の動画を見ればわかる。
Nepal’s Nepo Kids & Their Luxury Lifestyle That Led To Gen Z Protests
ネパール政府がした最悪の決定
首相や大臣たちは、自分たちの足元に火がついたことに気づき、国民がフェイスブックやユーチューブなどのSNSを使うことを禁止すると発表した。フェイクニュースやヘイトスピーチに対処することを理由にあげたが、実際には自分たちの立場や利権を守るために、国民の口をふさごうとしたのはバレバレだ。政府は「不都合な真実」を隠したかったのだろうが、最悪のタイミングで最悪の決断をしてしまった。
不満を言う権利すら奪われたことで、特に若い世代が激怒し、デモが発生。それが大規模な暴動に発展し、結果として首相は辞任に追い込まれ、議会は崩壊し、ネパールでは初めて女性が新首相となった。
今回のデモを総合的に見ると、政治腐敗と社会格差が根本的な原因で、政府が表現規制をおこなったことがきっかけで国民の怒りが爆発し、首相や大臣は自滅した。「悪は滅びる」と言うけれど、国民から表現の自由を奪おうとしたのは致命的なミスだった。
民衆に囲まれ、裸にされてリンチを受ける大臣もいた。「ネポキッズ」たちももう終わりだ。
いま在日ネパール人が思うこと
混乱は収まりつつあるが、「勝負」はこれからだ。先ほどのネパール人はこんな思いを語った。
「this time the government can’t be failed otherwise Nepal might be seriously in danger position economically, socially and geo politically.」
もう政府が失敗することは許されない。もし失敗すれば、ネパールは経済的、社会的、地政学的に深刻な危機的状況に陥るかもしれない。
特権階級にいながら、その自覚のない人たちはいつか破滅するということを、今回ネポキッズたちが証明してくれた。ネパールに比べれば日本社会の格差は小さく、日本人には「空気を読む能力」があるから、こんな暴動が起こることはないだろう。しかし、社会的に影響力のある人が「素人がSNSをやるな」と表現規制をすれば、自滅することはある。

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