明治時代に来日して、東京帝国大学(東大の前身)の教授となったアメリカ人のモースは、日米の健康状態の違いに注目した。
「東京の死亡率が、ボストンのそれよりもすくないということを知って驚いた私は、この国の保健状態に就いて、多少の研究をした。」
その“謎”を調べたところ、原因は衛生環境にあることがわかった。
日本では便所にたまった糞尿は捨てられず、畑に運ばれて肥料としてリサイクルされていた。いっぽう、アメリカではそうした汚水は川や海に流れ込み、水を汚し生物を殺していた。そして、「腐敗と汚物とから生ずる鼻持ちならぬ臭気は、公衆の鼻を襲い、すべての人を酷い目にあわす」という状態だった。
当時の日本は欧米社会を参考に近代化を進めていたが、下水処理に関してはアメリカより先進的だったらしい。
さて今回は、日本に住んでいたアメリカ人から聞いた、日米の医療制度の違いについて書いていこう。
ーーワッツ・ニュー(What’s new:最近は何かあった?)
あったあった、大ありだよ。コロナにかかって死にかけた! エレベーターの中で意識を失って倒れて床にあごをぶつけるし、高熱が出るし、お腹は痛いし、食事もまともにできなくて本当に大変だったんだよ。
ーーそれほど重い症状なら、入院して治療を受けた?
受けなかった。アメリカで病院のお世話になったら、どれだけ高くつくか知ってる? コロナになったぐらいで、簡単に病院へ行けないよ。私はまだ若くて体力があるから、仕事を休んで自分の力で治した。
ーーそれはまったくドヤれないな。君は病院で働いているし、医療保険にも入っているよね?
そう。だから、症状と自分の状態を考えて、病院に行かない選択をしたの。保険を使っても、アメリカの医療費は高いのよ。
ーー意識を失っても病院に行かないっていうのは、日本人の常識ではちょっと考えられない。
救急車で病院に運ばれるだけで、15万円ぐらいかかるのも、日本人には信じられないんじゃない? コロナ禍のころ、救急車は高いから、ウーバーを呼んで病院に行ったって人がいたんだって。
ーー日本と反対だ。まぁ、最近は簡単に救急車を呼ぶ人が増えたから、有料化の動きが進んでいるけど。
※日本の相場からすると、アメリカの医療費はぶっ飛んでいる数年前、アメリカでコロナにかかった人が2ヶ月ほど入院して治療を受けたら、約1億2千万円を請求されたこともある。だから、「コロナごとき」で簡単に病院に行けないという彼女の判断は、アメリカではきっと常識の範囲内だ。
ーー病院に行かないで、どうやってコロナだとわかった? 勤め先に医師の診断書を見せなくていいの?
自分で検査キットを使ってコロナに感染したとわかって、仕事を10日ほど休んだ。勤務先に医者の診断書を見せる必要はなくて、連絡するだけでオッケー。
ーー自己申告でいいんだ。
それでヨシ。わたしが働いているところでは「Sick leave(病気休暇)」がなくて、今回は自分の休みを使ったから、証明なんてしなくていいの。アメリカで病気休暇があるかないかは州によって違う(Sick leave in the United States)。
ーー「leave」というと「離れる、出発する」というイメージが強かったけど、「休み」って意味もあるんだ。
だってその期間、職場を離れることになるでしょ?
ーーなるほど、それは納得。でも、アメリカ人の「病院に行きたくない病」はちょっと想像を超えていた。
わたしもコロナになって、あらためてアメリカの保険制度の問題を感じたよ。保険に入っていても負担はとても大きい。数年前にコロナが大流行したとき、保険に入っていない人はコロナにかかっていても病院に行かない人が多かった。医療費の支払いで、自己破産するかもしれないし、仕方ないよね。でも、それが原因で結果的にコロナ禍が深刻化しちゃった。
ーーアメリカ社会では病院へ行く壁がとても高くて、「国民皆保険(かいほけん)制度」のある日本は低い。ウォール・マリアと低ハードルぐらいの差がある。
それは言い過ぎ、そこまでではない。でも、アメリカに住んでいてこういう経験をすると、「すぐに病院へ行ける日本の医療保険の制度は本当に素晴らしいな」ってつくづく思うよ。
ーーたしかに。初診料で3万円を請求されたらショックを受けて、それが死因になるお年寄りが出てきそう。医療面で安心して暮らせるのは、日本で自慢できるところだ。
そのとおり、ザッツライトだよ。アメリカ社会にある2つの大きな問題、銃のまん延と高額医療の問題が日本にはない。その安心感は本当に大きな魅力だよ。
2021年3月の時点で、アメリカのコロナ患者は累計で3000万人を超え、死者数も50万人を超えて世界最悪となった。また、2020年の平均寿命は前年に比べて1・5歳短くなったことがわかった(アメリカ合衆国における2019年コロナウイルス感染症の流行状況)。
ここまで被害が拡大した一因は、アメリカの高額な医療費にある。コロナに感染して治療を受けると、患者(または保険会社)は平均的に以下の金額を支払っている(2021年)。
医療保険に入っていないと約28万円(2500ドル)以上。
保険に入っていれば約11万円(1000ドル)。
入院して治療をうけると372万円(33500ドル)。
重症化して高度な治療を受けた場合は約3300万円以上になることも。
ソース:米CNNニュース(2021.09.26)「新型コロナの入院費用、平均833万円 米調査」
また、この問題は日本のメディアも取り上げている。
ダイアモンド・オンラインの記事(2020年12月3日 2:40)
コロナ死亡者を激増させた アメリカの高額医療制度
現代ビジネスの記事(2023.09.22)
医療費が恐ろしいほど高額なアメリカ…「病院離れ」の私がそれでも医者にかかって「良かった」と思った理由

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