8月4日に起きた対照的な二つの出来事
歴史を振り返ると、8月4日にはこんな二つの出来事が起きている。
一つ目は1936年のことだ。ベルリンオリンピックのサッカー競技で、初出場の日本代表が強豪のスウェーデン代表に勝利を収めた(ベルリンの奇跡)。
この結果は考えられないもので、ヨーロッパの新聞は「不可能なことが起きた」「だれが想像できただろうか」と驚き、日本を称賛した。
そして、二つ目は1944年に起きた暗い出来事だ。
ホロコースト(ユダヤ人虐殺)の最中、アムステルダムの隠れ家に潜伏していたアンネ・フランクら8名のユダヤ人が見つかり、警察に逮捕された。
このあとアンネは強制収容所に送られ、15歳の若さで死亡した。
一見すると無関係に思えるこの二つの出来事には、実は「ナチス」という共通点がある。
ベルリン五輪もホロコーストも、ナチス・ドイツが主体となっておこなわれた。

アンネ・フランク
ナチス・ドイツが見せた二つの異なる顔
アドルフ・ヒトラー率いるナチスは、日本人とユダヤ人に対して全く違う顔を見せていた。
ヒトラーはベルリンオリンピックを、ドイツの優秀性や自身の偉大さを世界中に見せつける機会ととらえ、総力をあげて開催した。
ヒトラーは極端な人種差別主義者だったが、日本人には敵意を向けず、表面上は「友人」として接していた。
その一方で、ユダヤ人に対しては、ドイツを蝕(むしば)む「害虫」のように激しく憎悪した。
そのため、ユダヤ人という一つの民族を絶滅させることを目的に、ホロコーストをおこない、600万人のユダヤ人を殺害した。
当時のドイツ人にとっては、日本人も「異民族で異教徒」という点ではユダヤ人と同じだ。しかし、見方や扱いは天と地ほど違っていた。
ヨーロッパ社会で1000年以上続いた迫害
ユダヤ人が迫害を受けたのは、ナチスの時代が初めてではない。
彼らはヨーロッパ社会に1000年以上も住んでいたのに、決して「友人」と認められることはなく、迫害を受けつづけてきた歴史がある。
たとえば、中世ヨーロッパで黒死病が発生し、人が次々と死んでいくと、「ペスト菌」の存在を知らなかった当時のヨーロッパ人は、その原因を「神の怒り」のせいだと考えた。
それで、彼らは多くのユダヤ人を虐殺した。
キリスト教が支配的だった当時のヨーロッパでは、神が「異教徒のまっ殺」を望んでいると人びとは信じたのだ。
日本人の常識からすると、理不尽きわまりない理由でユダヤ人は標的にされたのだ。
ヨーロッパの歴史を通じて、そんな迫害がおこなわれてきた。


黒死病が流行し、火刑に処されるユダヤ人
キリスト教徒がユダヤ人を憎悪した理由
では、なぜキリスト教徒はユダヤ人を憎悪したのか。
その決定的な理由の一つに、聖書の記述がある。
古代イスラエルでイエス=キリストが処刑される寸前、ローマ総督のピラトが群衆(ユダヤ人)に、彼を殺害していいかと尋ねた。
すると群衆は「その血の責任は、我々と我々の子孫に及んでもかまわない」と叫んだという。
つまりこの記述によると、イエスの処刑に「GOサイン」を出したのはユダヤ人だったことになる。
そのことから、ヨーロッパでユダヤ人は「神殺しの民」というレッテルを貼られ、むごい迫害を受けてきた。
他国ではホロコーストにどう対応した?
長いユダヤ人迫害の歴史のなかでもっとも規模が大きく、その「究極形」と言えるのがホロコーストだ。
しかし、知り合いのフランス人は、それはドイツだけの罪ではないという。
なぜなら、フランス人は直接ユダヤ人を殺害してはいなかったが、ナチスの「ユダヤ人狩り」に協力した人はいたからだ。
リトアニアでも、ユダヤ人がナチスに連行されても「見て見ぬふり」をする人が多かったという。
とはいえ、現在の常識で当時の人たちを裁くことはできない。
オランダに潜伏していたアンネ・フランクとその家族を、ナチスに密告したのは現地のユダヤ人だったとされている。
ユダヤ人に差別感情を持っていて進んでナチスに協力した人と、自分や家族の安全を確保するために、やむを得ず悪魔に魂を売り渡した人は分けて考える必要がある。
ハンガリー人に聞くと、当時のハンガリーの状況はフランスやリトアニアとは違うらしい。
1944年にナチス・ドイツがマルガレーテ作戦でハンガリーを占領すると、ユダヤ人殺害に積極的に協力する人もいた。
その筆頭がナチスの思想に共感し、反ユダヤ主義的な極右政党の「矢十字党」だ。
彼らは女性や子ども、老人を含む8万人のユダヤ人が、ハンガリーから収容所へ送っただけではなく、彼ら自身でユダヤ人を虐殺した。
ヨーロッパ全体が背負うべき「道義的責任」
以上のことから、ホロコーストのすべての罪をドイツ一国に被せることはできないというヨーロッパ人と、これまで何人も出会ってきた。
知人のイギリス人は子どものころ、学校の旅行でポーランドにあるアウシュビッツ絶滅収容所へ行き、「ホロコーストはヨーロッパ全体の責任でもある」と習った。
ヨーロッパに長く根付いていたユダヤ人への偏見や憎悪が、ホロコーストという悲劇を後押ししたことは間違いない。
ホロコーストについて、道義的な意味なら「ヨーロッパ全体の罪」と認めるヨーロッパ人は多いと思う。
おまけ
ベルリン五輪では、日本人による「とても日本人らしい出来事」があった。
陸上棒高跳びで日本人選手が銀・銅メダルを獲得すると、2人はメダルを半分ずつに割って『友情のメダル』を作ったのだ。
これを「美談」と呼んでいいかは微妙だけど。

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