誰のための正義？日本人の差別反対デモに在日外国人が“迷惑”

はじめに断っておかなきゃだけど今回の記事、２日前の記事と重なる部分も多いのでそれはご理解を。

先月５月末、東京の渋谷区でクルド人男性が警察官から「暴行」や「差別」を受けたとして、警察に対する数百人規模の抗議活動がおこなわれ、全国的な注目を浴びた。
構図としては「加害者の日本警察と被害者の在日外国人」という感じでだ。

アラブニュース（31 May 2020）

クルド人と外国人、日本人が「警察の残虐な行為」に抗議

ハーバードビジネスオンラインの記事（６/10）

クルド人男性へのあまりに酷い暴行。なぜ渋谷警察署に抗議する人が集まったのか？

神奈川新聞の記事（2020年06月07日）

クルド人職務質問「警察の差別」　渋谷で抗議デモ

下の共同通信の記事は東京新聞、北海道新聞、新潟日報モア、京都新聞など日本の各地方紙に掲載された。

渋谷で「警察は人種差別するな」　５００人抗議、クルド人職質にも

たくさんの日本人がクルド人のために立ち上がって、警察の「残虐な行為」や「人種差別」を非難する抗議活動を行った。

日本クルド友好協会のホームページを見ると、「皆様のご支援に心から感謝いたします」という文章があるかと思ったら、そうでもない。
「日本政府、国会、警察庁、及び関係各所各位, 日本国民の皆様へ」という言葉からはじまる声明文では、なぜか迷惑そうだ。

当協会はデモを支持する立場ではなく、いかなる関与もしていないことを明確に申し上げます。（中略）デモはかえって在日クルド人への偏見を助長したように思われます。

在日クルド人に支持されない、クルド人のためにデモって一体なに？

というのは、まずこの在日クルド人の団体は、日本の警察官に暴行されたというクルド人男性について、「日本の法律・慣習に照らし合わせて、擁護する余地はありません。」と完全に突き放している。
それもそのはず。
渋谷区内で車を運転していたこの男性は道路交通法に違反し、警察官から職務質問を受けると車を急発進して逃走した。その後に確認すると、運転免許証を持っていなかった。

このクルド人は日本の法を無視して警察官の指示も守らなかったのだから、「在日クルド人は日本の法律・慣習を尊重いたします」という日本クルド友好協会の立場からしたら、擁護の余地は一切ないと言うのは当然で、むしろ日本の警察に理解を示している。

でも世間では、そんな日本クルド友好協会の思いを無視して「警察の残虐な行為」「警察の差別」「あまりに酷い暴行」というデモが行われ、挙句の果てにはこうなった。

産経新聞の記事（2020/06/11）

「手榴弾爆破させる」渋谷署などに予告メールクルド人男性への職務質問などに抗議か

さてこのデモについて、友好協会がこんな指摘と苦言をしている。

今回の渋谷警察署前でのデモは日本人参加者が大多数を占めていましたが、普段クルド人の支援活動には参加されていない方々ばかりであったと確認しております。

また日本のメディアの取材に対して事務局長が、「今回のデモは、協会には何の相談もなく行われており、真面目にやっている大半のクルド人にとっては迷惑なことでもあります」と話す。

当事者である日本クルド友好協会の主張をふまえると、在日クルド人には関心のない人たちが、クルド人のためにデモを行っていたようだ。
もうこの時点で、デモを行った日本人正義はかなりアヤシイしアヤウイ。
はっきりいえば、彼らはクルド人を利用して「日本の警察はひどい」「在日外国人は差別を受けている」といった自分たちの政治的主張をしたかっただけだろう。
人種差別反対は誰もが思うことだからそれはいいとして、自分たちの政治活動にクルド人を巻き込むべきではない。少なくともデモをする前に、協会に一言言うべきだった。

デモの写真を見ると「Black Lives Matter（黒人の命も大切だ）」というスローガンを掲げる人が多かったけど、それなら渋谷警察署じゃなくてアメリカ大使館の前で抗議するべき。

この騒動のあいだネット掲示物を見ていたけど、「クルド人は日本が嫌なら出て行け！」というコメントが一番おだやかに見えるほど、ひどい批判や悪口が津波のように書き込まれていた。
あれを見れば、無関係の友好協会に批判が殺到したのは容易に想像できる。
「デモはかえって在日クルド人への偏見を助長したように思われます」と言った背景はきっとそれだ。

在日外国人のために支援活動をしていると言っても、実はそれは自分のためだったりする。

今回の嵐が去って残ったものを見ると、悪いイメージを付けられた多くの在日クルド人が迷惑し、警察も困惑して、多くの日本人が「外国人めんどくせー」という印象を持ってしまった。
でも、その張本人であるデモをした人たちはどこかへ消えてしまった。
日本の警察の「暴行」や「人種差別」を訴えたメディアも、日本クルド友好協会の「大半のクルド人にとっては迷惑なことでもあります」という言葉は取り上げない。

言ってることが正しくても、やってることが正しいとは限らない。

確かに日本でも人種差別をする人はいるから「人種差別反対！」のスローガンは正しいけれど、自分の正義感を分別なく発揮すると、かえって在日外国人が迷惑する。
今回のデモをした人たちは、「デモはかえって在日クルド人への偏見を助長したように思われます」という外国人の思いに触れてほしい。
外国人のためと言いながら、関係者に相談もしないで日本人が自分勝手な正義をおこない、結果的に外国人への偏見を助長させたという話は今回だけではない。

まあ日本人同士でも、「おまえのためにオレがやってやる！」という人間が迷惑なことはよくある。