今回の登場人物は東アフリカから来たタンザニア人の男性で、彼はザンジバルの出身のイスラム教徒。
日本ではザンジバルと聞くと、「わかります。『ガンダム』に出てくる宇宙船ですね」という人が多いと思うが、リアルな世界では、タンザニア海岸の東にあってインド洋に浮かぶ島々(地域)をザンジバルと呼ぶ。ザンジバルはかつて王国があったところで、現在では150万人以上が住んでいる。
彼はその島で生まれ育ち、留学生として来日し、九州にある大学に通っていた。
そんな彼とハイキングをしていろいろな話を聞いたので、これからその内容を紹介しよう。
ーー君はインド系か。タンザニアにはインドをルーツに持つ人は多いの?
ザンジバルはインド洋にあって、歴史的にはアラブ人やインド人がたくさん来て多様性にあふれている。だから、私みたいなインド系は珍しくない。
ーーザンジバルに住んでいても、インドの文化や伝統を守っている?
カレーはよく食べるよww
家にはサンスクリット語かな? インドの言葉で書かれた家族の記録がある。両親は読めるけど、私にはまったく分からない。インドの影響や記憶はだんだんと薄れていくのは分かるから、このままではいけないとは思うんだけどね。
ーー昔、祖父から、「山に入っているときはしゃべってはいけない」と言われたことがある。祖父が子どものころ父親から、山には妖怪や悪い精霊が住んでいて、人の声を聞くと近づいてくるから、「山では黙っていろ」と言われたらしい。
タンザニアでもそんな話はある?
ザンジバルは日本と違って山がないから、私はそれについては知らない。イスラム教では、山に妖怪のような不思議な生き物がいるという考え方はないはずだ。人ではない存在なら「ジン」がいて、それはイスラム教で認められている。
日常生活で不思議なことが起こると、それを「ジンのしわざ」と考える人もいる。
ーーそう言えば、知人のトルコ人に天狗の説明をしたら、「イスラム世界だとそれはジンになりますね」と言ってたな。
1802年に描かれたジン
ーーケニアやタンザニアには広大な草原があって、ライオンやゾウ、シマウマなどが生活する様子を見ることができる。だから、日本のテレビや雑誌はアフリカを「野生の王国」と表現することがよくある。
あなたはサファリをしたことがある?
ないない。サファリは数万円から10万円以上かかってとても高いから、私にはとても手が出ない。あれは外国人が楽しむためのアクティビティで、普通のタンザニア人にはそんなことをする余裕がない。
私は九州の動物園で生まれて初めてライオンを見た。そんな話をすると、驚く外国人は多いよ。
ーー前にテレビ番組に出てきたケニア人が、日本の動物園で初めてライオンを見たと興奮して話しているのを見て、意外に感じたことがある。君もそうなら、「アフリカ=野生の王国」というステレオタイプを変えないといけないな。
ーー日本で生活していて大変なことはある?
私が電車に乗っていると、車内は混んでいて隣は空席なのに誰も座ろうとしない。「黒人の隣に座るより、立っているほうがマシ」と思うんだろうね。
ーーそんな差別体験があったのか。
私も最初はそう思って不快に感じた。でも、日本に住んでいると、日本人はとてもシャイで、外国人に慣れていないことが分かるから、隣に座らないことに悪意はないと思うようになった。だから、それが差別と言えるかどうか分からない。
ーー日本には「トナラー」という特殊な言葉があって、隣に人がいる状態を嫌う人が多い。それを察して、“親切心”で隣の席に座らないケースもあると思う。
それは本当? 理解できない感覚だな。私なら、誰かが隣に座ってくれたら、新しい人と話をして楽しむことができるから、ラッキーだと思う。
ーー日本人の「トナラー」を不快に思う感覚は独特だから、外国人にはなかなか理解も共感もされない。
イスラム教徒の立場から、日本で困難なことについて言わせてもらうと、土葬できる墓場がとても少ないことだね。
イスラム教では死は終わりではなく、天国に進むための「最後の旅(last journey)」と考えられているんだ。死後は土葬されることが決められていて、それを守らないと、生前にイスラム教の教えを守ってきた成果が無くなってしまう。
土葬されることは好き/嫌いの問題ではなく、ムスリムとしての義務なんだ。
ーーいま日本では「ムスリム墓地」をめぐって問題が起きている。それを建設するためには、地元住民の理解や支持を得る必要がある。でも、それがうまくいかない。
日本にいるイスラム教徒は、キリスト教の墓地で埋められていると聞いたことがある。でも、違う宗教の人と一緒に埋められるのは、本来はよくないことなんだ。
ーー「郷に入っては郷に従え」とイスラム教のルールを両立させるのは本当にむずかしい。
ところで、異教徒と同じところはイヤというのは、「トナラー」を嫌がる日本人の感覚に近いのでは?
コメント
コメント一覧 (1件)
> 「トナラー」を嫌がる日本人の感覚
これはできるだけ早く改める方がいいと思いますよ、特に若い人たち。こんなバカなことをいつまでもしていると、下手すると、世界中から日本人だけがつま弾きにされるようなことも考えられないでもない。
現代における世界共通の認識として、「他人・他国人と仲良くしよう、不必要に敬遠しない、差別をしない」というのが基本となりつつありますからね。