日本でドイツ文化は「不幸なこと」がきっかけで知られるようになった。
1914年、第一次世界大戦の最中に日英同盟を結んでいた日本は、イギリスのリクエストに応じて参戦し、中国の青島にいたドイツ軍と戦った。日本はこの「青島の戦い」にあっさり勝利し、多くのドイツ兵を捕虜として日本に連れて帰り、各地の収容所に入れた。
こうしてドイツ人捕虜と日本人の交流がはじまり、バウムクーヘンやハムなどのドイツ文化が日本に伝わった。
その後、日本でバウムクーヘンの人気は爆発して、ドイツよりも身近なお菓子になる。日本で初めてバウムクーヘンを食べたというドイツ人も珍しくない。

最近、フランクフルト出身で今年の4月に日本へ来た20代のドイツ人男性と、佐久島という離島に行った。ということで、今回は旅行中に彼から聞いた話を紹介しよう。
フランクフルトはベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、ケルンに次ぐドイツ第5の都市だけど、日本での知名度はナンバーワンで、名前だけなら幼稚園児でも知っている。
そんな彼に、日本に来てから20回以上は聞かれただろう、こんな質問をしてみた。
ーー日本のコンビニや屋台の食べ物は流行り廃りが激しいけど、フランクフルトは昔から定番アイテムになっている。日本のフランクフルトソーセージは本家と違う? どっちがおいしいと思う?
「まず見た目が違う。フランクフルトのソーセージは日本より細いんだ。ドイツではスーパーで瓶詰めで売られているけど、日本では見たことがない。味については、まだ食べていないから何とも言えないね。今は唐揚げやおにぎりが気に入っていて、いろんな種類を食べたいから、ソーセージは後回しにしている。」
※日本では日本農林規格(JAS)で以下のように決まっている。
ウインナーソーセージ:太さ20ミリ未満で羊腸を使用したもの。
フランクフルトソーセージ:太さ20〜36ミリ未満で豚腸を使用したもの。
大きさとしては日本のウインナーソーセージが、ドイツのフランクフルトソーセージに近いかも。
また、英語版ウィキペディアによると、ドイツ以外の国では茹でたソーセージを「フランクフルター(フランクフルトソーセージ)」と呼ぶことが多く、アメリカのホットドッグに使われるソーセージがこれに当たる。でも、ドイツでそれは「ウィンナー・ヴルストヘン(ウィーン風のソーセージ)」と呼ばれている(Frankfurter Würstchen)。

日本料理の特徴で、大きな魅力は肉を生で食べること。
ドイツの世界的建築家ブルーノ・タウトは昭和の日本を訪れ、和食についてこう述べた。
「料理は主として自然なままの状態である。栄養があって美味しい刺身のように生ではないにしても、常に明瞭、簡素、純粋の状態で供される」
ヨーロッパ人にとって日本の料理は喜ばしく、驚くべきものがあるという。
魚市場ではぷりぷりのエビを売っていて、その場で食べることができた。食べ方は生か焼くかで、店主は「新鮮だから刺身にするといいデスヨ」と勧める。
ドイツでもエビを食べるけど、加熱して食べるから「生」という選択肢はないらしい。
彼は日本に来てから、寿司や刺し身など生肉を食べる機会がめちゃくちゃ増えて、抵抗感はなくなって、むしろ楽しみになったという。
とはいえ、ドイツでも肉を生で食べることがある。

ーー日本で牡蠣(カキ)は人気だけど、ドイツでも食べる?
「食べるよ。ドイツでもカキを焼いたり、生のままレモンをかけたりする。カキは高級レストランのメニューにある感じだね。ドイツの伝統文化ではなくて、フランスから伝わったんじゃないかな?」
ーーやっぱりドイツでも食べるのか。その歴史は日本より長いかもしれない。
日本食の特徴は肉を生で食べることで、寿司や刺し身は海外にも広まっている。でも、カキについては「逆」なんだ。もともと日本ではカキを生で食べる習慣はなく、欧米にはあった。明治時代以降に生で食べる習慣が日本に紹介され、定着した。
へ〜、生食の文化が西洋から日本へ伝わったのか。それは意外だ。
ーーだよねー、こんな事例は本当にめずらしくて、ボクもカキ以外は知らない。
ドイツにはイタリア料理店がたくさんあって、メニューに牛肉のカルパッチョがあるから、ドイツでも肉を生で食べることはある。
ーー牛肉のカルパッチョか。日本ではカルパッチョといえば魚で、牛肉なんて見た記憶がない。
そうだ! ドイツには豚のひき肉を生で食べることがある。それはソーセージの一種で「メット」って言う。ジャムやバターみたいに、メットをパンにつけて食べるんだ。
ーー写真を見ると、メットは赤い生肉だから、見た目はネギトロみたい。
確かにネギトロと似ている。日本人はそれをご飯にのせて、ドイツ人はメットをパンにのせるから食べ方の発想も近い。
ーーそれにしても、日本とドイツの生食は“逆”なんだな。
日本でも以前は生の牛肉をユッケとして、いろんな店で食べることができた。でも、2011年に5人が死亡する集団食中毒事件がおきてから、衛生管理がめちゃくちゃ厳しくなって、牛肉のユッケを出す店は激減した。
豚の生肉を売ったり提供したりするのは、法律で禁止されているから日本では食べられない。
生食文化の差は、フグの調理師免許に似ている。日本人でも、テーブルに豚の生肉が出たら驚くだろう。
日本とドイツの生食文化は“逆”だ。日本は魚を生で食べる文化が中心で、ドイツでは肉を生で食べる文化が一部存在するだけだ。
もちろん、豚の生肉はとてもアブナイ。ドイツでもメットを作るには厳格なルールがあって、資格を持った人しか扱えないから、安心して食べることができるんだ。
ーーフグの調理師免許みたいなものか。
話をまとめると「牛や豚の生肉はOKでも、魚を生で食べることはない」というドイツの状態は、日本と反対になっている。どらえもんの秘密道具「アベコンベ」を使ったみたいで、ちょっと不思議な感じがする。
その例えはわからないけど、ドイツで生食は例外的にあるだけだ。寿司や刺し身、海鮮丼を日常的に食べる日本の食文化とは根本的に違うよ。

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