『進撃の巨人』に登場する城壁に囲まれた都市の“元ネタ”と噂されているのが、ドイツ南部バイエルン州にある都市ネルトリンゲン。
ファンのあいだでここは「非公式聖地」とされていて、ネルトリンゲン市としても観光客を誘致したいということだから、きっとウィンウィンだ。
さて今回は、日本の大学で留学していた20代のドイツ人男性、ここでは名前を「ライナー」として、彼から聞いた話を紹介しよう。テーマは「日本らしさと国際化」だ。
ーー今年、日本に来た外国人の数は6月までに2000万を突破して、観光地は完全にキャパオーバー。なかには来なくていいヤツもいて、最近も鳥居で懸垂をした外国人がネットで炎上した。「文化が違ってダメだと分からない」とか、「禁止を伝える案内がないと外国人は OKと判断する」と擁護する声もあるけど、ライナーはどう思う?
それは絶対にダメだ。文化の違いで鳥居の意味がわからないのは仕方ないが、そこでどう振る舞うかは敬意の問題だ。鳥居があれば、そこが宗教施設であることは誰でもわかる。最低限の常識と異文化への敬意がある人間なら、そこで懸垂をすることはない。
ーーなるほど。そういえば、ハイキングで山の上にあるお寺まで行こうとしたとき、ライナーはドレスコードを聞いてきたっけ。
日本の夏は本当に蒸し暑くて、ドイツ人の俺には本当に不快だから、ハーフパンツとサンダルで外出することが多かった。でも、寺や神社へ行くときは必ず長ズボンを履いて、足を見せないようにした。ハイキングでも寺へ行くならそうするのが当然だ。
ーーそういう外国人ならウェルカムなんだけど。
自己中心的な人間ほど他国の文化に対する理解や敬意が欠けていて、注意されると「文化の違い」を言い訳にする。数千万人もいれば、そんな人間は避けられないだろう。でも、日本には独自のルールがあって、俺でも分かりにくいものもある。
ーーたとえば?
日本の文化を紹介するユーチューブ動画を見ていたら、お寺や神社の庭には、小さな石をひもでしばった「止め石(とめいし)」を置いて、進入禁止をあらわしていると説明していた。
その動画を作った外国人は、石の意味が分からなくてその先に行こうとしたら、日本人に注意されたらしい。
俺も何知らないで止め石を見たら、神や精霊が宿った特別な石かと思うだけで、それを避けてそのまま進んでしまうだろうな。
ーー日本人は風情を大切にするから、伝統文化を体感できる場所に「立入禁止」と書かれた看板を設置して雰囲気を壊したくない。代わりに違和感を感じさせるものを置いて、見た人に考えさせ、意味に気づかせようとする。でも、そんな「察しさせる文化」は日本人以外にはなかなか通じない。
無理だね。せめて、入口に「止め石は進入禁止の意味です」という案内がほしい。
ーーテーマパークなら、「No entry」や「Staff only」と書いた案内を設置すればいいけど、お寺や神社の関係者はそんな無粋なことはしたくないだろうし、そもそも「観光地」と見なされたくない。外国人に合わせた対応をすれば、きっと日本人から「日本らしさがなくなった」と文句が出るだろうし、この辺は難しい。
日本らしさは大切にしないといけない。清水寺の近くにあるスターバックスは、古い街なみに溶け込んでいてすごく良かった。

京都と奈良の境にある「イオンモール高の原」では、駐車場や建物の内部に線が引かれ、京都と奈良の境が分かるようになっている。「京都ゾーン」に落ちていたものは京都府警、「奈良ゾーン」のものなら奈良県警が対応することになっている。
ーーライナーはドイツのどこに住んでいた?
オランダとベルギーの国境のすぐ近くにある、アーヘンという都市だ。「ファールザーベルク」を知っているか?
ーーああ、ファールザーベルクね。それは何?
ファールザーベルクという山の上にオランダ、ベルギー、ドイツの国境が1つになることを示すモニュメントがあって、それは割と有名なんだ。
ーーいまネットで調べたら、ファールザーベルクの高さは約320mしかないけど、オランダでは一番高い山らしい(海外領土を除く)。日本で「低山」と呼ばれる山は標高1000m未満だから、その三分の一もない。
オランダは基本的に平らな国だから、自転車で走るにはちょうどいい。

異民族の侵略を受けて、国や王朝が滅亡することは「世界史あるある」。でも、日本にはその法則が通じず、古代から一度も国が変わっていない。
ーー島国の日本にとって、外国は海の向こうにある。だから、そんな「三国国境」よりも前に、そもそも大陸国によくある国境がない。それは日本人の精神にも影響を与えていて、閉鎖的でスケールの小さい考え方や性格は「島国根性」と批判的にいわれる。
ライナーが日本にいて、そんなことを感じたことはある?
俺が付き合っていた日本人は、外国の文化や国際交流に関心がある人が多かったから、そういうことはなかった。でも一度、それっぽいことを感じたことならある。ヨーロッパの歴史ではドイツ、イギリス、フランスなど各国の王族どうしが結婚することがよくあって、現在のヨーロッパ人はそのことに違和感を感じていない。
ーー結婚のほかにも、外国から国王を迎えることもある。イギリスの場合、ドイツ出身の王が即位した後でドイツとの戦争がはじまったから、王朝の名前をドイツ風からイギリス風に変更したこともある。日本だったら、そんなことは考えられない。
日本人の友人と話をしていて、天皇家には子どもが少なくて皇位継承の問題があるって聞いたから、外国人との結婚を提案したんだ。そしたら、「天皇が国際結婚をして、皇后が外国人になることは想像できない!」とすぐに却下されたね。これは歴史や伝統の違いによるものだけど、「島国根性」に近いものを感じた。
ーー「女系天皇」でさえ反対意見が多い状態だから、国際結婚なんて国民感情としてありえない。皇族の女性が元大韓帝国の皇子と結婚したことはあるけど、たぶんこれが限界だ。
日本人には、ヨーロッパ人みたいな国を超えた「仲間意識」みたいなものは無いんだろうな。
ーー東アジアの中で王族や皇族が何度も結婚をしていたら、今の日中韓の関係もまったく違って、EUみたいに国境が無くなっていたかもしれない。まぁ、韓国や中国でもそこまでの一体感を望む人は少ないだろうけど。
でも、島国だからこそ他国にはないユニークな文化があって、それが日本を特徴づけている。「止め石」もその一つで、こんな進入禁止のサインは日本でしか生まれない。意味が分かれば、それはすばらしい文化だと思う。
現在の天皇は126代目で、一度も王朝が変わっていないと知ってびっくりした。ヨーロッパでは考えられないね。
ーー皇室は世界最古の王朝で、日本は世界最古の国と言われていて、そこに誇りを感じる日本人もいる。でも、日本らしさを保ったまま国際化するのは難しいね。今はその過渡期だから、いろんな問題が生まれている。ネットで京都の人たちの書き込みを見ていると、オーバーツーリズムで生活が不便になったことよりも、日本の文化や伝統が壊されることへの怒りが多い気がする。

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