日本人と中国人の考え方のちがいは囲碁に表れていて、中国で囲碁はサッカーやバスケと同じく、「スポーツ」と考えられている。囲碁はマインド(頭脳)スポーツの一つとされ、子どもたちが判断力や集中力を身につけるために学校で学ぶこともある。
だから、中国では「体育省(国家体育総局)」が囲碁を管轄しているし、アジア競技大会で囲碁が正式競技として採用されたこともある。
さて今回は、20代の中国人男性の話を紹介しよう。彼は中国の大学を卒業したあと、来日して今は日本の大学で学んでいる。ここでは名前を「タイラン(泰然)」として、彼に中国の学校生活について聞いてみた。
ーー最近どう? 何かあった?
10月1日から、大学の研究室のエアコンが使えなくなりました。まだ暑いのでそれが不満です。
ーータイランが日本で平穏無事な生活を過ごせていてよかったよ。
まぁそうですね。でも、おかしくないですか? エアコンは気温に応じて使うかどうかを判断するもので、「◯月◯日から使用できない」というルールは不自然です。日本には意味のわからない規則が多いんですよ。
ーーそれはひょっとしたら、衣替えが原因とか?
そうかもしれません。で、衣替えって何ですか?
ーー季節の変化に応じて着る服を替えること。6月1日になると夏用の服を着て、10月1日になると寒さを意識した服を着るから、その日からエアコンが使えないのは衣替えと関係しているのかな、と思った。中国で衣替えの習慣はない?
そうする地方があるかもしれませんけど、わたしは知りません。
ーーそうなんだ。衣替えは中国から伝わった風習で、日本では平安時代に宮中行事としてやっていた。でも、発祥の国ではもうやらないのかな。当時は「更衣」と呼ばれていたらしい。
「更衣」という言葉なら今の中国にもありますけど、そんな習慣は聞いたことないです。服を替えるタイミングは地方や人によってバラバラで、みんなが一斉に替えることはないですね。

台湾の中学校
ーーところで、「服を着替える」って中国語で何て言うの?
「换衣服」です。
ーー「衣服の交換」って衣替えと同じだな。学校では生徒が同じタイミングで制服を替えない?
それならあります! 中国の学校では「秋、冬、夏」の3種類の制服があって、9月から秋の服になります。
ーー夏服と冬服は想像できるけど、秋の服ってどんなん?
いま画像を送ります。
ーー秋の服って、これは長袖・長ズボンのジャージだよね?
「ジャージ」ってなんですか?
ーーあ〜、それは和製英語だった。ジャージってのはトラックスーツやスポーツウェアのこと。
※韓国語だととんでもない意味になる。
そうです。中国の子どもたちはこんなジャージを着て学校へ行きます。それが制服なんですよ。
ーー日本の中学生・高校生が着るような制服はない?
見たことないです。ああいうオシャレな服は日本のコスプレをするときに着る、というイメージがありますね。
中国の制服(ジャージ)は「絶望的にダサい」と文句を言って、日本の制服にあこがれる人もいますけど、わたしにはラクで良かったです。でも、いまネットで調べてみたら、日本風の制服を採用する学校もあるみたいですね。
ーー「冬の服」はジャンパーみたいな防寒着だな。中国の制服の画像を見ると、男女が同じ服(ジャージ)を着ているけど区別はない?
ありません。日本では男子学生はズボン、女子学生はスカートを履いていますけど、中国ではそんな区別はなくてみんな同じ格好をしています。男女平等が進んでいますね。
ーーそういう面もあるね。まぁ、2025年の「ジェンダーギャップ指数」では日本は118位で、中国(103位)よりも下だったけど。
(全国でそうか知らないけど)日本では生徒が学校に来たら、制服から体操着に着替えることになっている。中国の学校じゃそんなことをしないんだ。
しませんよ。毎朝、学校に着いてすぐ着替えるのですか? 面倒くさそうですね。通学するための服というのも無意味な気がします。
ーージャージ姿で街なかを歩くのはだらしないとか、生徒が「オン/オフ」のけじめをつけるためとか、制服にはそれなりに意味があると思う。中国人はメンツにはこだわるけど、外出時の格好はわりとどうでもいいよね?
ですね。家の中でパジャマ姿でいて、そのままスーパーへ買い物に出かける女性もいますし。
ーーちょっと前まで、シャツを上げてお腹を出して街を歩く「北京ビキニ」のおっさんもいた。

「北京ビキニ」の中国人男性
日本のアニメを見ていると、学校に下駄箱があって生徒が靴を履き替えるシーンが出てきます。あれは珍しくて、やってみたいと思いました。毎日はイヤですけど。
ーー台湾人からもそんな話を聞いたけど、中国人的にあれが魅力的なの? というか、中国の学校に下駄箱はないんだ。
ありません。体育館にはありました。
ーーじゃあ、生徒が登校して、上履きに履き替えることも…。
しません。靴を履き替える習慣がないから、中国の学校には昇降口がないんです。
ーーそれは、中国の一般家庭も同じだよね? 靴を脱がないから玄関がない。
最近は靴を脱いで入る家もありますけど、靴を履いたまま入る家が多いですね。日本の学校では毎日、生徒が上履きと外靴に履き替えるのは衛生のためですか?
ーーそれはやっぱり、清潔な環境のためでしょ。靴を替えないと、外の泥を運んで廊下が汚れるだろうし。それと、下駄箱がないとバレンタインデーのドキドキ感がなくなるし、学園もののアニメで昇降口は、人が出会って声を掛ける場面でよく使われるから無いと困る。
私は学校で上履きを履いた経験がないですし、今も日本の大学で靴を履き替えることはありません。でも、それで学校内が不潔になったという感覚はありませんね。
ーーたしかにボクも大学生のころ、校舎の中が汚かったという印象はなかった。世界的には靴を履き替えない学校がスタンダードだろうし、じつは上履きは履かなくてもいいのかもしれない。
制服の種類や昇降口の有無とか、学校には日中の国民性が表れていますね。日本人は細かくて、中国人は合理的です。
ーーそうだね。日本人はルールをしっかり守って、中国人は面倒くさがり。
後日談
日本の学校で外靴から上履きに履き替える理由は、校内を清潔に保つためだと思っていたけど、調べてみると、それ以上に日本人の習慣の影響が大きいらしく、以下の説があった。すべて、日本に学校制度が導入された明治時代の話だ。
・小学校のほとんどはお寺や一般の家の建物を使っていて、畳が敷いてあったから、子どもたちは靴を脱いで上がっていた。床が板張りになっても、その習慣は残って現在まで続いている。
・西洋建築の校舎では床が板敷きになっていたため、冬になると冷たくなり、児童が歩くにはキツイから、入口で外靴を脱いだあと、屋内用の履物を履くようになった。これが上履きが使われるきっかけとなった。
・靴を脱いで屋内に入るという日本の習慣が学校にも持ち込まれ、さらに、子供たちが出入りするところ(今でいう昇降口)を1つにすることで、先生側には子供たちを把握しやすくなるというメリットが生まれた。

コメント
コメント一覧 (2件)
初めてコメントさせていただきます。
興味深く読ませていただきました。
日本の学校内でも昇降口の是非に関しては議論があるようです。
ただ、私の子供の頃の話で申し訳ないのですが、避難訓練をして上履きのまま外に避難する、という(学校の方針で、非常ベルが鳴ったら理由を問わず避難することになっていた。その時代、学校が荒れていて非常ベルをいたずらで鳴らす阿呆が多かったのでそうなったのです。一日、10回避難したことも。ただ、その日以降、非常ベルはいたずらで鳴らなくなりましたから、「狙い通り」だったかもしれませんね)ことが試されたことがあったのです。あいにくの曇天でグランドは泥だらけ。
避難訓練ですから、下駄箱で靴を履き替える時間というのは実は避難の妨げになって「おこなうべきではない」というのは合理性があるように思えますが、実際はそうはなりませんでした。校舎内に泥が持ち込まれて、みんなで大掃除する羽目になったのです。
結論から言うと、日本の学校に昇降口があり、上履きとの履き替えを行うことは、土のグランドを利用していることにも、関係しているかもしれませんね。古くは道路が舗装されていなかった時代もありますから、その時代の名残と言えるかもしれません。
したがって、「校舎内を清潔に保つため」というのは、環境にもよるのでしょうが、強ち間違いではないと思いますよ。
コメントをありがとうございます。
もちろん、上履きを履く理由には衛生環境を保つため、ということがあります。とくに健康を考えれば、小学生には必要なことでしょうね。ただ、世界の先進国でも、学校では靴を履き替えることはしません。ですから、日本人の習慣の面も大きいと思います。