北京上海ウルムチ… 中国の都市に日本語/中国語読みがある理由

今回、話を聞いたのは20代の中国人男性で、ここでは彼の名前を「凌風(リン・フォン)」にしよう。
凌風は中国の最西部、中央アジアに近い新疆(しんきょう)ウイグル自治区の出身で、東北部(満州)の大学へ進学し、今は留学生として静岡の大学で学びながら、日本語の勉強をしている。
そんな彼には「謎」があるらしい。

 

ーー10月になって暑さもやわらいで、やっと秋らしくなってきた。最近、日本の夏はストーカーみたいにしつこくて、なかなか離れてくれないから秋が短くなっている。日本の季節は四季から二季になりつつあって、秋は貴重だから楽しんだほうがいい。

そうですね。だから、この前スーパーで柿を買って食べました。甘くておいしかったです。

ーーそれはナイスチョイス。日本の柿は世界的にも有名で、アメリカやヨーロッパでも「カキ」という日本語で呼ばれているのだよ。

【世界語】ドイツ人やブラジル人が柿を「カキ」と呼ぶ理由

 

中国に柿はあるだろうけど、ウイグルにもある?

ありません。でも、中国南部やアオシマから運ばれてくるので、柿を食べることはできます。

ーーアオシマ…って青島のことか。青島は日本でも「チンタオ」って言うから、それは中国語読みでOK。

日本語を勉強していて、不思議に思ったのが都市の呼び方なんです。たとえば、成都は中国語発音の「チェンドゥ」ではなくて、日本語発音の「せいと」と言います。重慶(チョンチン)も「じゅうけい」って呼びますよね。でも、上海(シャンハイ)や青島(チンタオ)は中国語の発音をします。

ーーだね。だから、中国を旅行していて、宿で外国人旅行者と出会って話をすると、時間が止まることが何度かあった。「どこから来た?」と聞いて「シーチャーチュワン」と言われても、それが「セッカソウ(石家荘)」だなんて、知らなかったら絶対に分からない。漢字を見せてもらって、そこがどこかを理解する。

日本人ならではの経験ですね。

ーー日本人同士でもそんなことがある。日本人の旅行者に「コウシュウから来ました」って言われると、広州か杭州か分からないから「広いほう? それともクイ?」って聞き返す。「ティエンチンから来た」って言われると、「テンシン(天津)って言えや」って思うけど。
グァンジョウ(広州)とハンヂョウ(杭州)みたいに、全て中国語で統一していたら、こんな混乱は起こらないけど。

そこなんです。中国の都市について、日本では日本語と中国語の発音をするところがあります。あれはどうやって使い分けているんですか?

ーーで、日本の柿を食べたのは初めて? 味はどうだった? …って誤魔化したい気分になる。中国の都市名の呼び方のルールははっきりわからないけど、昔、本でこんな話を読んだ。
基本的には日本語読みをする。でも、昔、貿易で交流があったところは現地の読み方が伝わって、日本人もそう呼ぶようになったらしい。上海や青島のほかにも、厦門(アモイ)、香港(ホンコン)、澳門(マカオ)がこれに当たる。

 

読み方は分からんけど、意味は一瞬で分かる「吸管(ストロー)」。

 

ーー10月に入ってやっと涼しくなってきた。でも、中国東北部の瀋陽や新疆のウルムチってめっちゃ寒いんでしょ?

それはそうなんですけど…、すみません、また地名にツッコミを入れさせてください。「しんよう(瀋陽)」は日本語の読み方で、「ウルムチ(烏魯木斉)」は中国の発音です。ウルムチは海岸ではなく、内陸にある都市なんですけど。

ーーこの場合は別のルールがある。ハルビン、ウルムチ、チチハルという地名は漢民族ではなくて、中国の少数民族が付けたものでしょ? ウルムチはモンゴル語の「美しい牧草地」に由来するし、ハルビンの由来には満州語、女真語、モンゴル語など諸説ある。
日本では、そういう中国語(漢民族の言葉)に由来しない地名は現地の呼び方を採用して、カタカナで表記することになっている。

複雑ですね。

ーーまあね。だから、「新疆ウイグル自治区」とウイグルだけはカタカナ表記になっている。

※18世紀、清王朝が西域での戦いに勝ち、新しく手に入れた領土を「新疆」と名づけた。新疆とは「新しい土地」「新たに取り戻される」といった意味らしい。

じゃあ、「ペキン(北京)」はどうですか? あそこは港町じゃないし、少数民族が命名したものでもないです。

ーーあれは特殊。中国人も外国人も「ベイジン」で、「ペキン」と呼ぶのは世界で日本人だけ。日本語の漢字には、中国の地方で使われていた発音で読むものがある。たとえば、行を「ギョウ」、礼を「ライ」と読むのは中国南方にあった「呉」から伝わった発音といわれている。「ペキン」も元は中国南部の発音で、日本では江戸時代から使われていて、すっかり定着して日本語になったから、今でも「ペキン」のままでいる。

日中は歴史的に深いつながりがあるから、中国の都市にはいろんな呼び方があるんですね。

ーーそういうこと。だから、基本的には日本語読みで、例外を覚えていったほうがいい。「習うより慣れろ」、「考えるな、感じろ」みたいな。

了解です。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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